骸の爪/道尾秀介
2006年発表 (幻冬舎)
2008.02.29読了
等身大の像の中に死体を隠すというアイデアは、ミステリでは使い古されたものだと思いますが(*)、本書の場合は乾漆像の特徴がうまく生かされていると思います。本来は中空で軽いはずの乾漆像であるために、“倒れてきたら危ないですよ”
(113頁)という一言が手がかりとなっているのがよくできていますし、腐敗ガスを抜くための切れ目が本物らしい偽装になっているのも面白いところです。
結末では、自らの行為が新たに事件を引き起こす原因となったことを知った唐間木老人が、自ら命を断っています。自殺に至った心境は理解できるのですが、魏沢・岡嶋・鳥居の三人による韮澤殺しを目撃した唐間木老人が、それを黙って見過ごすことに納得できる理由はありませんし、二十年もの間放置しておきながら(鴉枢沙摩明王の像に亀裂が入るというきっかけもあったとはいえ)突然三人を脅し始めるというのは、心理的にかなり不自然に感じられます。結果として、強く印象に残る悲劇的な幕引きを用意するという作者の都合が透けて見えてしまい、釈然としないものが残るのは否めません。
2008.02.29読了