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木乃伊男/蘇部健一

2002年発表 講談社ノベルス(講談社)

 この作品では、顔を包帯でぐるぐる巻きにされた“ミイラ男”という題材がうまく生かされています。一種の覆面になっているわけですから、人物の入れ替わりトリックは誰しも予想するところかもしれませんが、本文186〜187頁に書かれているように都合七人が“ミイラ男”になってしまうという、いわば“七人一役”という途方もない真相は秀逸です。

 また、この“七人一役”に加えて“二人一役”トリック(玲香と双子の姉妹)が使われているところも見逃せません。しかもこちらは単なる入れ替わりではなく、鏡を使って二人を一人に見せかけることで犯人を“消失”させるというユニークなトリックです。ただし、“双子の姉妹”というアイデアはかなり唐突で、無理が感じられます(一応、“玲香にそっくりな顔の身元不明死体”という伏線はありますが)。また、“ミイラ男”(“向井”)によるかなり早い段階での解決がそのまま真相だったというのはもったいなく思えてしまいます。また、この真相を裏付ける“証拠”(48頁のイラスト)が読者に対してのみ提示されているところも問題かもしれません。

 192頁のイラストで暗示された結末は衝撃的です。ベンチに座って主人公を待つショートカットの女性は、右の耳たぶをつまんでいます(登場人物紹介及び本文26頁の記述もあわせてご参照下さい)。この結末を、文章ではなくイラストで表現したのは正解でしょう。

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 なお、この作品では上記のようにイラストが効果的に使用されていますが、何らかの形で叙述トリックを組み合わせれば、より効果的だったのではないでしょうか。例えば、視点人物による登場人物の誤認などは面白そうです。

2002.09.10読了

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