- 「びいどろの筆」
- 犯人が偽装工作を行った動機、すなわち、絵から矢が放たれたと見せかけること自体が目的ではなく、柔術の形が描かれていることを隠すために弓を描き加えたという真相は秀逸です。また、泉筆の“インゴ”(インク、あるいはインディゴのことでしょうか)が手がかりとなっているところもよくできています。
- 「経師屋橋之助」
- 真相は納得できるものですが、木十の推理にはあまり根拠がなく、唐突に感じられます。根拠といえそうなのは、被害者が恨まれるような人物ではないことくらいでしょうか。
- 「南蛮うどん」
- 面白いトリックではありますが、穴の開いた南蛮うどんがあまりにも特徴的なため、“火のついた蝋燭を食べる術”があまりミスディレクションとして役に立っていないのも仕方ないところでしょう。それにしても、この術を利用した事件の始末はお見事です。
- 「泥棒番付」
- “五大力サ”という謎の言葉ですが、二通りの解釈ができることでミスディレクションとなっています。しかし、どちらの解釈も現代人にはなじみのないものであるため、今ひとつピンとこないのが残念です。
この言葉の真の意味が明らかになったことで、犯人の嘘がばれてしまうという展開はよくできています。
- 「砂子四千両」
- 秘薬探しの資金をだまし取るのではなく、予想外のところを狙った蘭魚の計画は、非常にユニークです。錬金術の方にも一風変わったトリックが使われていますし、たけがその真相に気づいたきっかけ(黒猫・まるの落ち着かない様子)にも、序盤でしっかりと伏線が張ってあります。
- 「芸者の首」
- 病に倒れるよりも、愛する者の手にかかって死ぬことを選ぶという豊菊の心情は、十分理解できるものです。由美吉を助けることにもなりますし。それにしても、その情念の深さには胸を打たれます。
- 「虎の女」
- 黒人の話や彫重の体に残された白いままの部分などから、白粉彫りというネタはみえみえですが、その現象の鮮やかさはやはり印象に残ります。
2001.06.16再読了
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