ミステリアス学園/鯨統一郎
まず、巻頭のエピグラフで“冒頭の一行で内外名作ミステリすべての真相を明かしていますので、未読のミステリを残している方は二行目からお読みください。”
という無茶な注意をしておきながら、その“内外名作ミステリすべての真相”なるものが“被害者を殺害したのは犯人である。”
(9頁)だというのがまた無茶で、いきなり失笑を余儀なくされてしまいます。
ところがその無茶なネタバレを逆手に取るかのように、「ミスミス研」のメンバーを襲う事件の真相が事故死や自殺など、“被害者を殺害したのは犯人”
に当てはまらないものばかりだという趣向にニヤリとさせられます。個々の真相が今ひとつ面白味を欠いているのは残念なところですが、小倉紀世治の死因が老衰だという真相にはさすがに唖然。
一方、連作としての仕掛け――マトリョーシカ方式の構成は面白いと思いますし、前のエピソードが作中作として次々取り込まれていくのと歩調を合わせて「ミスミス研」のメンバーが消えていくという趣向もよくできています。
しかも、連作として最後までパターンが守られていくかと思いきや、
(1)「第四話」までは一つ前のエピソードが架空のものとして――被害者となった平井龍之介・西村純子・星島哲也が架空の存在として――取り込まれているのに対して、「第五話」からは一転してすべてが現実のものとして扱われる。
(2)「第五話」までは一つ前のエピソードの作者が被害者となっているのに対して、「第六話」からはそうなっていない。
(3)「第五話」までは一つ前のエピソードの作者が『ミステリアス学園』全体の作者となっているのに対して、「第六話」からは「ミスミス研」メンバーの合作となっている。
という風に、途中でパターンを崩すことで終盤の展開を予想しにくくしてあるのが巧妙です。
そして「最終話 意外な犯人」では、「ミスミス研」最後の一人となった湾田乱人が『ミステリアス学園』の作者(鯨統一郎?)の存在に気づき、「ミスミス研」のメンバーを“殺害”した真犯人を推理することになりますが、(明確な)犯人が存在しない事件ばかりという趣向がうまく再利用されているのが見逃せないところです。
湾田の推理はまず、“犯人=作者”・“犯人=読者”というメタミステリでは定番ともいえる“真相”を導き出しています。“犯人=作者”が“シュレーディンガーの猫”で否定されているのもさることながら、“ページをめくることによって”
(330頁)登場人物を殺害したという“犯人=読者”が、“登場人物たちが死んでいった時、読者は本を読んでいた”
(337頁)というアリバイによって否定されるという強引さが何ともいえません。しかし、読者の動機として冒頭の無茶な“ネタバレ”がこれまた再利用されているのはうまいところです。
最後に示される、まだこの本を読んでいないすべての人々(未読者)という犯人は確かに斬新かつ意外ではありますが、さすがに感心するよりも呆れてしまうのが正直なところ。とはいえ、マトリョーシカ方式という構成や、“E=MC2を小説で表現したい”
(13頁)という湾田の目標までが(一応は)伏線となっているところなどは、評価すべきなのかもしれませんが……。