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触身仏/北森 鴻

2002年発表 新潮エンターテインメント倶楽部SS(新潮社)
「秘供養」
 焼死体の真相は、泡坂妻夫のある短編((以下伏せ字)「意外な遺骸」(ここまで))を思い起こさせます。
 ところで、敷根は五百羅漢の由来について、飢饉に伴う疫病の患者を生きたまま焼き殺したものと考察していますが、“遺体の損壊”と飢饉とを考え合わせると、疫病ではなく“喫人”を想定する方が自然ではないかと思います。逆にいえば、五百羅漢についての敷根の考察は不自然なものであるわけで、そのため、遺体を焼くという行為を隠蔽するためにレポートの後半を削除するという行動も、無理のあるものに感じられてしまいます。そのあたり、“Bプラス”と評されても仕方のないところでしょう。

「大黒闇」
 事件の謎解きは特殊な知識に基づくものですが、被害者が仏像を扱わなくなっていたという伏線がしっかりしているため、アンフェアな感じはありません。
 殺人事件と民俗学との関連はほとんどありませんが、“神の変貌”というキーワードが曖昧だった犯人の動機に光を当て、結末へとつながっているところはよくできていると思います。

「死満瓊」
 曲玉についての仮説の存在が犯人の動機となっていることは早い段階で明らかになりますが、犯人が誰か、すなわちその仮説を発表されたら困るのは誰か、というところはうまく隠されています。そして、民俗学の考察をさらに進めることでようやく犯人が明らかになるという解明の手順が秀逸です。
 それにしても、犯人が曲玉を飲み込ませたトリックをわざわざ実演してみせた那智は……。

「触身仏」
 特になし。

「御陰講」
 “御陰講”と“わらしべ長者”の類似、そして富の代償の欠落という着眼点はよくできていると思います。なじみ深い“わらしべ長者”の伝説が、“ギブ・アンド・テイク”というキーワードによって鮮やかに裏返される展開は、まさにミステリそのものといってもいいかもしれません。
 さらに、その“ギブ・アンド・テイク”というキーワードが現実世界にも登場してくることで、二つの謎が二重写しになっていくという構図は、非常に巧妙です。

2003.02.04読了

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