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はだかの太陽/I.アシモフ

The Naked Sun/I.Asimov

1957年発表 冬川 亘訳 ハヤカワ文庫SF558(早川書房)

 凶器についての真相は、ロボットというSF設定をうまく生かしてあるという意味でまずまずのものだと思います。しかし、いわゆる“ロケットパンチ”(笑)などのように、体の一部分を取り外し可能な構造のロボットを見慣れている(と思われる)現代の日本の読者にとっては、かなりわかりやすくなっているようにも思います。
 一種の言葉遊びからベイリが真相に思い至るあたりは、いかにも〈黒後家蜘蛛の会〉を書いたアシモフらしいといえるかもしれません。短編ならともかく、長編でこれでは若干面白味に欠けるようにも思いますが、証拠がどんどん隠滅されていってしまうという状況なので仕方ないところでしょうか。

 本書の問題はやはり、事件の決着です。他人を“見る”、あるいは他人に“見られる”ことを病的に嫌悪するリービッグが、被害者の前に姿を現すことができないのは明らかで、ダミーの解決としてもお粗末だといわざるを得ないでしょう。ベイリはこれについて、“あの男のロボットの悪用に驚愕のあまり、ソラリア人たちがそこまでは気づかないだろうと計算していました”(345頁)と述べていますが、いくら他のことに気を取られていたとしても、ダニールの接近に脅えてリービッグが自殺してしまったのを目の当たりにすれば、気づかないほうが不自然だと思います。
 結局のところは、作者がグレディアに“傷”をつけまいとするあまり、他の登場人物たち(特にソラリア人)の行動を歪めてしまったということになるかと思います。もっとも、真相を明るみに出してしまえばグレディアがすんなりとオーロラへ行くわけにはいかないかもしれませんし、少なくともグレディア自身が大きなショックを受けることは免れないでしょうから、ベイリの“実験”がうまくいかなくなる可能性は高くなると思われます。そう考えると、あるいはやむを得ないことなのかもしれません。

2005.11.06再読了

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