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忍者六道銭/山田風太郎

2005年刊 山田風太郎忍法帖短篇全集10 ちくま文庫 や22-25(筑摩書房)

 一部の作品のみ。

「忍者死籤」
 天引坊太郎は最終的に、自分の歯を岩殿源之介に、左腕を西方宗七郎に、そして男根を芒六太夫に与えています。したがって、完全に元の体に戻るためには、首次万華が阿曾平作の右眼と西方宗七郎の右腕だけでなく、岩殿源之介から歯を、西方宗七郎から左腕を、そして芒六太夫から男根を自らの体に移植している必要があります。
 天引坊太郎は“あそこに、わたしの右腕やらそれから何やらがあるんで”(109頁)という台詞を口にしていますが、もともと失っていない“右腕”が明らかに間違いなのはともかく、失った部分(特に歯や男根)が確実にその場に存在するという保証はありません。このあたり、作者自身にも少々混乱があったのでしょう。

「くノ一地獄変」
 後半は、ある長編((以下伏せ字)『忍びの卍』(ここまで))の裏事情という感じでしょうか。本が手元にないので確認できませんが、そちらでは服部半蔵は特に重要な役どころではなかったと思います。裏ではしっかりこんなことをやっていたのですね。

「天明の判官」
 一連の事件の真相そのものは今ひとつ(ただし足跡のトリックは面白いと思います)といわざるを得ないのですが、それはさほど問題ではないでしょう。そもそも冒頭の場面、平賀源内の話の意味を考えると、曲淵甲斐守の意思が働いているのは見え見えですから、この作品は(半)倒叙ミステリとして読むのが適切だと思います。つまり、私心を持たないはずの甲斐守の動機は何なのかという、一種のホワイダニットと考えるべきではないでしょうか。そして、その動機を暗示する“この件ばかりは相わからず”という言葉が、何ともいえない印象を残します。

「天明の隠密」
 繰り返されるどんでん返しも強烈ですが、やはり冒頭の国木田独歩「忘れえぬ人々」が、最後の真相を暗示する伏線になっているのがすごいところです。

2005.01.08読了

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