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棺のない死体/C.ロースン

No Coffin for the Corpse/C.Rawson

1942年発表 田中西二郎訳 創元推理文庫103-13(東京創元社)

 トリックについては、正直なところ今ひとつといわざるを得ません。“死なない男”にしても、凶器の消失にしても、目に見える現象は不可思議で、興味をひかれます。ところが、これが奇術関連の特殊技能によるトリックであるため、かえって解決のインパクトがあまり感じられません。

 例えば、超能力による殺人を考えてみましょう。容疑者が超能力を持っていることが早い段階で明らかにされていなければ、もちろんアンフェアです。一方、早い段階でそれが明らかにされている場合、“超能力による殺人だった”というだけの真相では、解決の意外性も何もあったものではありません。この作品は、ちょうどこれと同じような状況になってしまっているのではないでしょうか。西澤保彦「念力密室!」などでは、“なぜ?”という要素をポイントとすることによって、フェアなミステリとして成立させていますが、この作品ではそのような工夫もなされていません。つまり、“どうやって?”がメインのポイントであるにもかかわらず、それを特殊技能によって解決しているために、ミステリ的な興味が薄れてしまっているのです。

 とはいえ、ドライアイスのトリックはいいと思います。狭い車内、しかも窒息にまで至る必要はなかったということで説得力もありますし、マッチの火が消えてしまったことから発覚するあたりもよくできています。

 マーリニとロスの証言からはウルフ夫人が犯人だという結論が導かれるにもかかわらず、二人の証言を警察が信用してくれないために、ロスの推理を何とかして否定しなければならなかったというところは、逆説的でなかなか面白いと思います。

2000.03.15読了


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