ミステリ&SF感想vol.1

2000.04.05
『赤き死の炎馬』 『屍島』 『エッシャー宇宙の殺人』 『棺のない死体』


赤き死の炎馬 奇跡鑑定人ファイル1  霞 流一
 1998年発表 (ハルキ文庫か4-1)ネタバレ感想

[紹介]
 奇蹟や怪奇現象が真実であるかどうかを鑑定する奇蹟鑑定機関の調査員、魚間岳士は、平家の落人と首のない馬の伝説が残る田舎町へやってきた。テレポーテーションとしか思えない怪現象を鑑定するはずだったのだが、やがて不可思議な連続殺人事件に遭遇する……。謎を解くのは〈奇蹟鑑定人〉天倉真喜郎。

[感想]

 現代のバカミス第一人者、霞流一が送るシリーズ第一弾。今回は“馬づくし”です。
 いつものギャグはやや控えめですが、特に第二の事件の間抜けな真相には思わず脱力。と同時に、ここまでするのかという、業の深さのようなものも感じさせます。
 しかしこの人はどうして、ただの握り飯を食う場面を、こんなにうまそうに描けるのでしょうか。

2000.02.23読了  [霞 流一]



屍島 奇跡鑑定人ファイル2  霞 流一
 1999年発表 (ハルキ文庫か4-2)ネタバレ感想

[紹介]
 〈奇蹟鑑定人〉魚間岳士と天倉真喜郎のコンビのもとへ、瀬戸内海に浮かぶ鹿羽島から依頼がきた。島にある山の中で、木から鹿の首が生えていた上に、その鹿が馬のような鳴き声を残して姿を消してしまったというのだ。かくして、馬とも鹿ともつかない幻の獣“馬鹿”が影を落とす島で、奇怪な殺人事件が連続する……。

[感想]
 シリーズ第二弾。馬の次は鹿ということで、完璧な流れです。
 事件よりも登場する奇人たちの方が気になってしまいますが、霞流一ならではの豪快なバカトリックも炸裂。

2000.02.25読了  [霞 流一]



エッシャー宇宙の殺人  荒巻義雄
 1983年発表 (中公文庫 あ29-1・入手困難ネタバレ感想

[紹介と感想]
 多くの人々のによって形作られ、天才画家エッシャーが描いた超建築が並ぶ港街、カストロバルバ。この幻想都市を訪れた夢探偵・万治陀羅男は、相次いで発生する奇怪な事件の謎を解き明かそうとするが……。
 本書*1は、超現実的な作品で知られる画家/版画家、M.C.エッシャー(→「マウリッツ・エッシャー - Wikipedia」を参照)の作品世界が具現化された夢の街カストロバルバ*2を舞台とした、ユニークな幻想ミステリ連作短編集です。
 まずはやはり、エッシャー作品に描かれた数々の超建築を“現実”のものとしたアイデアの勝利*3といったところで、これまたエッシャー作品からイメージを発展させたと思しき“蜥蜴タクシー”などのモチーフも添えられ、さらに街そのものが人々の夢によって作り上げられているという設定も加わり、幻想的で実に魅力的な舞台となっています。
 その特殊な舞台を生かした奇妙な事件が扱われているのはもちろんですが、オーソドックスな捜査/推理による真相の解明と、精神分析を取り入れた(エッシャー作品と)事件の解釈とが“両輪”となり、そこに有名な文学作品が絡んでくる独特の解決が、本書の最大の特徴といえるでしょう。
 純粋にミステリとしては少々微妙なエピソードもありますし、総じてやや意外性に乏しいのは否めません*4が、少なくとも幻想ミステリやエッシャー作品が好きな方には、一読の価値があるのは確かでしょう。

「物見の塔の殺人」
 阿呆鳥侯爵邸にある物見の塔で、侯爵が墜死した。一階の床から二階の外側に掛けられていた梯子は取り外され、ひとり二階に取り残されていた侯爵夫人に容疑がかかるが、当の侯爵夫人は誰かに首を絞められて気を失っていたと主張して……。
 エッシャーの代表作の一つである「Belvedere」*5を元ネタにしたエピソードで、塔の特異な構造に基づく墜死の状況をいわば踏み台にした、エッシャー作品の解釈が面白いところ。そして容疑者が限定された中での、やや反則気味のフーダニットにニヤリとさせられます。

「無窮の滝の殺人」
 水が無限に循環し続ける無窮の滝を擁する水車小屋で、錬金術師オーガスチンが怪死を遂げているのが発見された。内側から頑丈な閂がかかった密室状況の部屋の中、水車に連動するウインチで吊り下げられた袋の中で、餓死していたのだ……。
 これも代表作の一つ、「Waterfall」をもとにしたエピソード。密室内での餓死という不可能犯罪が扱われていますが、さらに終盤になって(やや地味ながら)新たな不可能状況が飛び出すなど、本書の中でミステリとして最も面白いものになっています。そしてこの世界ならではの真相がお見事。
 なお、作中にロナルド・A・ノックス「密室の行者」ネタバレがありますので、そちらを未読の方はご注意下さい。

「版画画廊の殺人」
 エッシャーの作品そっくりの奇妙な構造で知られる版画画廊で、画廊の女主人の息子が何者かにライフルで狙撃され、負傷する事件が起きた。犯人は不明なまま、今度は女主人の老母がやはりライフルで狙撃され、命を落としてしまった……。
 版画「Print Gallery」を題材にしたエピソードで、事件の真相は直観的にはかなりわかりやすいと思いますが、探偵である万治陀羅男がそこに到達するまでの紆余曲折がなかなか興味深いものになっています。

「球形住宅の殺人」
 球形に膨らんだような奇妙な形のバルコニーがある娼家で、三人いる娼婦の中の一人、セヴリーヌの客が立て続けに殺害される事件が起きる。最初は枕に仕掛けられた爆弾による爆殺、次は毒殺、そして撲殺と、なぜか異なる手口だったのだが……。
 版画「Balcony」が元ネタではあるものの、超建築と事件とのかかわりが薄いのは物足りないところ。とはいえ、派手ではないながらも奇妙な事件の真相――そして結末はこの世界ならではのものとなっており、強く印象に残ります。

*1: 『カストロバルバ―エッシャー宇宙の探偵局』(中央公論社・入手困難)を、文庫化に際して改題したものです。
*2: “カストロバルバ”という名称は、エッシャーがその風景を描いた(→例えば「Castrovalva」など)イタリアに実在する村(ただし本書のような港街ではない)からとられています(→「Castrovalva (Abruzzi) - Wikipedia(English)」を参照)。
*3: 他には柄刀一「エッシャー世界」『ゴーレムの檻』収録)くらいしか思い当たらないのが、少々意外な感じもします。
*4: “世界”そのものがやや曖昧なだけに、サプライズを演出するよりも“納得しやすい真相”とすることが重視されている節があります。
*5: 以下、作品の画像は「The Official M.C. Escher Website」内へのリンクです。

2000.03.09再読了
2011.03.02再読了 (2011.03.06改稿)  [荒巻義雄]



棺のない死体 No Coffin for the Corpse  クレイトン・ロースン
 1942年発表 (田中西二郎訳 創元推理文庫103-13・入手困難ネタバレ感想

[紹介]
 巨大な権力を持つ実業家が密室で殺された。容疑者は、被害者の娘との仲を反対されていたロス・ハート。ロスの親友である奇術師探偵マーリニは、真相解明のために立ち上がるが、捜査陣の疑惑はマーリニ自身にも向けられてしまう。何度死んでも生き返る“死なない男”の謎。心霊術と奇術の対決。最後にマーリニが明らかにする真相は?

[感想]

 面白い部分もありますが、メイントリックには大いに不満があります。アンフェアなわけではありませんが、とても成功しているとはいえないでしょう。犯人はある意味で意外ですが。

2000.03.15読了  [クレイトン・ロースン]



氷河民族  山田正紀
 1976年発表 (角川文庫 緑446-2)

 山田正紀ガイドへ移動しました。



黄金の羊毛亭 > 掲載順リスト作家別索引 > ミステリ&SF感想vol.1