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のぞきめ/三津田信三

2012年発表 (角川書店)

 「終章」で“三津田信三”はまず、「覗き屋敷の怪」での怪異の現れ方の差に着目して解釈を行っていますが、確かに城戸勇太郎が最初に死んだのは奇妙で、先祖の因縁という結論にはうなずかされるものがあります。

 もっとも、四十澤想一が雑林住職の姓名(名字)について“読みは幾つか考えられるが、そのうちの一つが如何にも寺の坊主に相応しく感じられた所為だ。(283頁)と、思わせぶりなままではっきり書かずに終わってしまうのは、ミステリの手がかりとしては面白いと思いますが、やや不自然に感じられるのは否めません。例えば、“読みは幾つか考えられるが、如何にも寺の坊主に相応しく〈じょうど〉と読めた所為だ。”のようにはっきり書いてしまった方が、四十澤としては自然だったのではないでしょうか。

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 さて、“純粋な怪異”が猛威を振るう「覗き屋敷の怪」を経て、「終い屋敷の凶」でもこれまた怪異の仕業と思しき現象が続発していますが、その結末では大量殺人が発生しています。例えば鞘落惣一の不審な転落死などは、「覗き屋敷の怪」での城戸勇太郎や岩登和世の死が伏線となって、怪異の仕業という解釈をすんなり受け入れることになりますが、鞘落家での毒殺怪異にそぐわないので、そこに怪異ならぬ“犯人”の存在を見て取ることは、さほど難しくないように思います。

 しかして、その“犯人”に該当する人物が見当たらないのが難しいところですが、結局のところは四十澤が目にした“のぞきめ”しかいない――となれば、その“のぞきめ”が怪異ではなく実在する人間、ただし“見えない人”である、というところまで思い至ることも、不可能ではないかもしれません。“持蓑”という言葉はさすがに特殊すぎるので、“終い屋敷”の異名である“児災屋敷”から“持蓑屋敷”にたどり着くのはまず不可能でしょうが、それでも前述のように“のぞきめ”の真相についてはおおむねフェアといっていいように思います。

 もちろん、“三津田信三”が列挙した八つの謎にことごとく説明がつけられていくところもよくできていますし、火葬された棺桶から飛び出した“バラバラ死体”についての解釈も秀逸。そして、“のぞきめ”の真相を解き明かした後のさらなる推理も十分しっくりくるもので、南雲桂喜が語った四十澤夫人の何気ない所作がまったく違った意味を持ってくるところなどもよくできています。

2012.12.26読了