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海のオベリスト/C.D.キング

Obelisits at Sea/C.D.King

1932年発表 横山啓明訳(原書房)

 多重解決形式の先例であるA.バークリー『毒入りチョコレート事件』と本書とを比べてみると、『毒入りチョコレート事件』ではすでに終了した事件が扱われているのに対し、本書では事件の進行中に推理が行われています。このために、次々と示される心理学者たちの推理がことごとく間違っていることが見え見えなのが残念です。特に、カバー見返しのあらすじによって読者には明かされているにもかかわらず、スミス氏の死因すら知らずに推理を披露するヘイヴィア博士は、かわいそうにさえ思えてしまいます。

 一方、先の読めないプロットは魅力的です。終盤、真の探偵役であるマイケル・ロードが意外な形で登場する場面はもちろんですが、スミス氏の意外な死因、容疑者の思わぬ射殺、コラリーの“遺体”の消失、船長が仕組んだ大胆な“避難訓練”など、枚挙に暇がありません。事件の様相が次から次へと変わっていくために、多重解決という趣向の興が削がれているのは否めませんし、正直ここまでしなくても、と思わないでもないのですが、面白いのは確かです。

 ただ、肝心の真相は今ひとつ。怪しい人物はあまり残っていないのでさほど意外でもなく、また現行犯で犯人だと指摘されてしまうところも物足りません。

 巻末の「手がかり索引」も、“身許に関する妙な点”が露骨な伏線となっている他は、その箇所だけ抜き出してみれば怪しいといえなくもない、といった程度でしかなく、やや期待外れの感があります。

2005.06.22読了

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