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屋上物語/北森 鴻

1999年発表 ノン・ノベル N-653(祥伝社)

 一部の作品のみ。

「はじまりの物語」
 中学生の幼稚で陰湿な悪意の陰に隠れて、それを操ろうとする大人の強烈な悪意。苦い物語ですが、西岡少年の子猫が助けられる一方で、中岡が杜田に尻尾を押さえられているのが、せめてもの救いといえるでしょうか。また、さくら婆ァが真相に気づかないことも。
 しかし、最後のエピソード「楽園の終わり」では結局、さらに苦い方向へと転がってしまうのですが。

「波紋のあとさき」
 密室殺人のようでいて、機械仕掛けによる凶器の消失だったという真相は、横溝正史の有名な作品を思い起こさせます。しかし、トリックの中心である観覧車そのものが語り手となっているのが、非常にユニークな効果を上げていると思います。また、夜中に動いた観覧車の光が真相解明のための手がかりになると同時に、次のエピソードへの橋渡しのために新興宗教を登場させるきっかけにもなっているあたりは、実に見事な手際です。
 物語の結末は、るりちゃんにとっては辛いものかもしれませんが、中岡の悪意を知るさくら婆ァは、事実を知るよりもまだ救いがあると考えています。しかし、“神の視点”を持つ語り手(観覧車)だけが知っている真実は、さくら婆ァの見方を否定しているようにも思えます。どれだけ真相に近づいているかによって、事件の受け取り方が三者三様になっているところが印象的です。

「SOS・SOS・PHS」
 謎の電子音がファックスの信号だということが明らかになった時点で、というよりも、なぜ(どうやって)ほぼ同じ時刻にファックスが送られてくるかに思い至った時点で、苦い結末を見通すことは不可能ではないでしょう。

「挑戦者の憂鬱」
 真の標的であるピンボールマシンから目を逸らすための、いわばダシにされたタク(とロクさん)にとってはたまったものではないかもしれませんが、佐古下がピンボールマシンを壊そうとする理由が秀逸です。また、冒頭に描かれた子供の異状までもが絡んでくるのも見事です。

「楽園の終わり」
 直前のエピソードではなく、最初の「はじまりの物語」を受ける形になっています。さくら婆ァ自身が事件に関与しているのですが、その動機は哀しく、その結末はさらに哀しいものです。さくら婆ァの思いは西岡少年に通じることなく、それを知る杜田の心情も胸を打ちます。
 一方、さくら婆ァ自身の事件は思わぬ結末を迎えます。息子が亡くなった屋上でずっと働いてきたさくら婆ァの苦労も報われたのでしょうか。

2003.09.16読了

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