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鬼の探偵小説/田中啓文

2001年発表 講談社ノベルス(講談社)
「鬼と呼ばれた男」
 ミステリとホラーのどちらに転ぶのか、というのがこの作品の最も面白いところだと思います。鬼丸刑事が本物の鬼であることが早い段階で示されているのもその表れでしょうし、事件の動機に関わっている“のんちゃん”の“異形”も、ホラー寄りのミスディレクションとして機能しているといえます。

「女神が殺した」
 酔っ払いのいたずらかと思われた通報が事件につながっていたり、“教主{きょうす}”という呼び名がダジャレの伏線になっていたり、はたまた冒頭の警察オタクの話が終盤に効いてきたりと、なかなか巧妙に組立てられていると思います。
 ただ、“内臓持ち去り事件”は強引に感じられます。内臓だけ持ち去ればアトロピンが検出されないのか、というのもありますが、やはりとっさにそこまでできるとは思えないのが難点です。

「蜘蛛の絨毯」
 蜘蛛の巣による密室という状況も面白いのですが、本物の(?)蜘蛛の知恵を借りているところが笑えます。
 見立ては偶然の結果という真相ですが、特にウェットスーツのあたりなどは説得力があります。
 なお、“蜘蛛”のダイイングメッセージが2枚の窓ガラスにまたがるように書かれていた点は、解決場面まで伏せられていますが、これはあくまでも演出効果(195頁の図表)を目的としたもので、真相解明に直接の影響はありません。

「犬の首」
 “瞬時にミイラ化した死体”という謎は魅力的ですが、冷静に考えれば別人の死体だという真相しかあり得ないはずです……普通のミステリならば。真相を見えにくくしているのは、“物っ怪”というホラー要素の存在です。もちろん、これより前の3篇では、超自然的な事件かと思わせて現実的な解決をつけるという手法が使われているのですが、逆に“そろそろ物っ怪の仕業でもおかしくないのでは?”と思わされてしまう部分があると思います。
 そして、一旦は合理的な解決を示しておいて、最後に物っ怪が真犯人であることを明かすという、前の3篇を逆手に取った構図になっているところも巧妙です。

2003.09.21読了

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