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おんな牢秘抄/山田風太郎

1960年発表 角川文庫 緑356-33(角川書店)

 まずは六つの事件について。

・お玉の事件
 “人を殺す紅蜘蛛”という、いかにも忍法帖的な(?)小道具がトリックに使われているのが面白いところです。また、車佐助が蝶を捕まえていたという伏線が秀逸です。

・お路の事件
 蝋面の存在が明らかになった時点で真相は見え見えになりますが、事件の構図――刺青の男を殺すことが主たる目的であり、女たちはスケープゴートとして選ばれたにすぎない――の一端が明らかになっているところは重要です。

・お関の事件
 頭巾の陰に隠れた入れ代わりはわかりやすいと思います。むしろ、玄光坊の正体に驚かされました。

・お半の事件
 “法”という刺青に“一代無”をつけ足して別人に見せかけるというトリックは見事です。

・おせんの事件
 最初の状況はなかなか面白いと思うのですが、解決がやや物足りなく感じられます。

・お葉の事件
 鏡を組み合わせて部屋の位置関係を誤認させるというトリックは豪快ですが、逆の腕に移動した刺青という手がかりもよくできています。

 これらの六つの事件が被害者の刺青を介して一つにつながっていくわけですが、この刺青のうち、“蓮”(蓮蔵)や“玄妙”(玄妙法印)などは名前と重なっていますし、“色指南”(十平次)などは本人の性癖をそのまま示しているため、さほど不自然さは感じられません。このあたりはうまく工夫されていると思います。そして、刺青に隠された“南無妙法蓮華経”という文字から七人目の存在が浮かび上がり、それが有名な“天一坊事件”へとつながっていく展開は絶妙です。

 “姫君お竜”を名乗って陰謀に迫る霞の代わりに、姫君お竜本人の命が奪われてしまう場面は衝撃的ですが、姫君お竜自身が霞の身代わりとして死ぬことを覚悟しているところが救いといえるでしょうか。

2003.02.07読了

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