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宇宙探偵ラスティ/B.コーヴィル

Murder in Orbit/B.Coville

1987年発表 斎藤ひろみ訳 ハヤカワ文庫SF817(早川書房)

 パケット博士の“遺体”がクローン体であることを示す“すべすべしたピンク色の手”という手がかりは非常によくできていると思います。“指のこげ茶色のしみ”がないことに気づき、ハンク・スモーリンによく似た別人(しかも存在しないはず)の死体のことを考え合わせれば、自ずと答えは明らかでしょう。

 実用レベルでの人間のクローニングという技術の存在が終盤まで伏せられているのはややアンフェアに感じられるかもしれませんが、これを早い段階で明かしてしまうと、存在しない死体の謎が見え見えになってしまうのですから、仕方のないところでしょう。むしろ、“技術的には可能な人間のクローニングが禁止されている”という設定を意図的に伏せることで、時代設定を利用したトリックとして成立させているといえるかもしれません(例えば、カーのある長編((以下伏せ字)『火よ燃えろ!』(ここまで))のように)。トワイニング博士が人間のクローニングより技術的に困難なはずの組織の再生を目指しているという手がかりもあるのですから、アンフェアとはいえないのではないでしょうか。

 ただ、同時にこの作品は、クローン技術に関する問題を抱えています。クローン体の命が軽く扱われているように感じられるのです。人間のクローニングが禁止された理由は書かれていませんが、普通に考えれば倫理的なものでしょう。そうであればなおさらのこと、スモーリンのクローン体を廃棄物システムに放り込んだり、パケット博士のクローン体を身代わりにしたりすることに、もっと躊躇があってしかるべきではないでしょうか。あるいは、まったく別の理由でクローニングが禁止されたことにしたり、個体としては生きていない(臓器のかたまりと同じ)ものだとするなど、何らかの理由づけをしておけばよかったのかもしれません。

2002.03.05再読了

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