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シャーロック・ホームズのSF大冒険(下)/M.レズニック&M.H.グリーンバーグ 編

Sherlock Holmes in Orbit/edited by M.Resnick & M.H.Greenberg

1995年発表 日暮雅通 監訳 河出文庫レ3-2(河出書房新社)

 一部の作品のみ。

「消化的なことさ、ワトスン君」 (ローレンス・シメル)
 少女アリスが、チャールズ・ドジスン(=ルイス・キャロル)の幼女趣味の犠牲者として描かれているところが、どうしても後味悪く感じられてしまいます。“アリス”ならではの“消失トリック”は面白いと思うのですが……。

「思考機械ホームズ」 (スーザン・キャスパー)
 “驚くべき性質――論理的な事実を否定する質によってだな”(103頁)というホームズの台詞は意味不明。あるいは誤訳でしょうか。

「シャーロック式解決法」 (クレイグ・ショー・ガードナー)
 仕組みは違うとはいえ、G.A.ルース「数の勝利」と同じような状況が笑えます。さらに、一人取り残されたサマンサがワトスン役を割り振られているところも。

「自分を造った男」 (デイヴィッド・ジェロルド)
 “名探偵ホームズ”というキャラクターがワトスン博士が創り上げたものだったという、真相そのものはさほどでもありませんが、ホームズの推理がタイムマシンによるものだったというのがなかなか強烈です。そしてそれゆえに、ワトスン博士自身のみならず、その子孫の懸念も切実なものとなり、暗示的な結末へとつながっているところが巧妙です。

「脇役」 (クリスティン・キャスリン・ラッシュ)
 犯人の動機がネッドの心理と微妙に重なっているところがよくできていますが、犯人を反面教師として前進しようとするラストのネッドの姿が印象的です。

「仮想空間の対決」 (ジャック・ニマーシャイム)
 モリアーティがベルヌーイ・ドライブ(→「Bernoulliディスク - Wikipedia」)に隠れていたというダジャレ風の真相には少々脱力させられますが、ホームズに対する“私”の敬意が伝わってくる結末が秀逸です。

「時を超えた名探偵」 (ラルフ・ロバーツ)
 殺人事件の解決が中心になるのかと思いきや、モリアーティ捕獲のための罠だったという、ひねられたプロットがよくできています。殺人事件の方が完全におまけになってしまっているのはやや残念ですが。

「シュルロック族の遺物」 (ジョジーファ・シャーマン)
 原題はE.A.ポー「The Purloined Letter」「盗まれた手紙」)のもじりのようで、事件の真相にも通じるところがあるように思います。そして、解決場面でのシュルロックのハッタリがなかなかの見ものです。しかし、最後がダジャレで終わってしまうのが何とも。

「不法滞在エイリアン事件」 (アンソニー・R・ルイス)
 本物のホームズが見つからないまま、“不可能なことを消去していけば……”という例の台詞に従って自分こそが本物だと結論づけるAIの行動が笑えます。

「未来からの考察――ホームズ最後の事件」 (ロバート・J・ソウヤー)
 ライヘンバッハの滝をシュレーディンガーの猫になぞらえたアイデアが非常に秀逸です。そして、“観察者”ワトスンによる観察結果が読者に受け入れられず、滝―ワトスン―読者という系において不安定な状態となる、〈ウィグナーの友人〉のパラドックス(S.バクスター『時間的無限大』参照)に通じるところまで拡大されているのが見事です。
 ワトスンがホームズの死を確定させたためにフェルミのパラドックスが解消するという結末もよくできていますが、亡き友ホームズのために一人涙を流すワトスンの姿が胸を打ちます。

「幻影」 (ジャニ・リー・シムナー)
 降霊会をネタに、ホームズの復活と、ドイルのオカルトへの傾倒という二つの事実をうまく説明しているところがよくできています。

「“天国の門”の冒険」 (マイク・レズニック)
 切り裂きジャックの魂が誤って天国に来てしまった挙げ句、犠牲者を求めて“門”を内側から開けようとするという展開が秀逸。ただ、わざわざ“第二の門”を作る理由がよくわからないのですが……本物と違って遍在していないので、ジャックの魂をすぐに捕まえることができる、ということでしょうか。

2006.09.15読了

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