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おさかな棺/霞 流一

2003年発表 角川文庫 か40-1(角川書店)
「顔面神経痛のタイ」
 ビデオのトリックは偶然の産物ですが、顔面神経痛というインパクトのある謎がうまく説明されているのは見事です。セーラー服の真相については、呆れたものやら感心したものやら……。

「穴があればウナギ」
[モップの図] 密室状態が不可能状況ではなくアリバイとなっているところが非常に面白いと思います。そして、時間としての密室から空間としての密室への変換も見事です。
 しかしながら、モップによる密室トリックは、現実問題としては不可能でしょう。右図(192頁より)に示したように、雑巾部分の左端を支点に、(理想的には)右端を力点にしたてこの原理で考えればいいかと思うのですが、作用点はモップの重心の位置になるはずです。支点と力点の間の距離が小さいので、吸い込まれた血液の重さ(せいぜい数百グラムでは?)でモップが立ち上がるには作用点が支点のすぐ近くになければ、すなわちモップの傾きがかなり小さく(ほとんど垂直に近い状態)なければなりません。ところがそうなると、ドアのすぐ隣にモップが立てかけてあったことになるのですから、かなり不自然です。少なくとも、出入りには邪魔になってしまうはずで、犯人の意図的な行為ならばともかく(何もメリットがないので、そうでないことは明らかです)、大いに無理があるといわざるを得ません。
 この無理がある密室トリックが、最後にひっくり返されるポイントになっているのかと期待していたのですが……。

「夕陽で焼くサンマ」
 果物ナイフに貼り付いた紅葉のイメージが鮮やかです。そして、思い込みつながりで「目黒のサンマ」へと持っていくオチは見事です。

「吊るされアンコウ」
 傘についてのロジックは、一見よくできているように思えます。が、334頁に書かれた伊佐のアシスタントの証言だけで、伊佐が透明のビニール傘をさしていた、とするのは短絡的ではないでしょうか。普通、“後姿を見ただけ”と表現する場合、本当に後姿以外は見えなかったのかどうか疑問ですし、傘の動きを見て“空を見上げていた”と判断した可能性もあるはずです。

2003.10.30読了

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