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死の序曲/N.マーシュ

Overture to Death/N.Marsh

1939年発表 瀬沼茂樹訳 ハヤカワ・ミステリ476(早川書房)

 事件が起きた時点では、犯人はエリイナを狙ったにもかかわらず、不測の事態によりアイドリスが殺されてしまったように見えます。エリイナからアイドリスへとピアノ奏者が変更されたのは事件の直前のことで、その後にピアノの中に拳銃を仕掛ける時間はなかったのですから、犯人の狙いがアイドリスだったとは考えにくいといえるかもしれません。

 ところが、実際にはピアノ奏者の変更が不測の事態とはいえないところが問題です。エリイナの指の傷が数日前から悪化し、ピアノを演奏するのはほとんど無理な状態だったわけで、エリイナに殺意を抱く犯人(彼女の身近にいると考えるのが妥当でしょう)がわざわざそのような機会を狙うとは思えません。そして、周囲の説得の結果とはいえ、最終的に奏者の変更を決定したのはエリイナ自身なのですから、自分が狙われたように見せかけてエリイナがアイドリスを殺した、という図式が浮かび上がってくるのは自然でしょう。

 このように、エリイナが犯人であることは比較的早い段階で見当がつくのですが、拳銃を仕掛ける機会は誰にもあることもあって、それを立証するのはかなり困難です。しかし、グラディス・ライトがピアノを演奏していたことから、あらかじめ仕掛けておいた拳銃の安全装置を事件の直前に外したという犯人の行動が明らかになり、奏者の変更にもかかわらず(そして機会はあったにもかかわらず)仕掛けがそのまま放置されたことでアイドリスが標的だったことが立証されるという流れは、なかなか意外でよくできていると思います。

2003.10.02読了

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