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航路/C.ウィリス

Passage/C.Willis

2001年発表 大森 望訳(ソニー・マガジンズ)

 まずは第一部、ジョアンナが臨死体験の中で訪れていた場所が、沈没直前のタイタニック号だったというのには唖然とさせられました。これ以上ないほどの“意外な真相”ですが、ブライアリー先生の教育の賜物ということで合理的に説明されており、実に見事といわざるを得ません。
 正直なところ、映画の大ヒットに便乗しているようで少々あざとく感じられないでもなかったのですが、よく考えてみればこれはある意味必然というべきでしょうか。映画が大ヒットしたからこそ、多くの臨死体験者の中にタイタニック号に通じるイメージが現れたわけで、それが結果として“ダミーの真相”――すべての臨死体験がタイタニック号につながる――を成立させているのですから。逆に、映画を見ていないメイジーの臨死体験に登場するタイタニック号にそぐわないイメージ(霧または煙)が、真相に至る手がかりとなっているところもよくできています。

 第二部では、ついにジョアンナが臨死体験の真相に到達しますが、これは感覚的には納得できるものです。そして、突如ジョアンナを襲う“死”と、それに続くリチャードの“暴走”には、大いに驚かされました。個人的には、リチャードがジョアンナを“連れ戻す”というファンタジー的(?)展開になってもよかったのですが、作者の扱いはあくまでも冷静かつ(仕方ないとはいえ)残酷。

 そして第三部。現実のパートでは、ミステリにおけるダイイングメッセージもののような展開が面白いと思います。メイジーに関する結末も、ややご都合主義的な感もあるものの、いい意味で予定調和といっていいのではないでしょうか。ただし、ジョアンナの臨死体験のパートは疑問。すべてが崩れ落ちてくるところまではいいのですが、その後の展開、そして最後の場面をどうとらえればいいのか、よくわかりません。

2004.04.27 / 04.28読了

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