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焦茶色のパステル/岡嶋二人

1982年発表 講談社文庫 お35-1(講談社)

 まずは、パステルの毛色が問題だということを堂々と宣言するかのような題名が印象的です。そしてその毛色の問題ですが、一旦はパステルの血統に関する疑惑を否定しておいて、祖父母までさかのぼることで再度疑惑を提出し、最後に血液検査の結果という“爆弾”を投入するというひねり具合が何ともいえません。この手順によって疑惑はパステルに集中し、ダイニリュウホウの問題が巧妙に隠されているのです(もちろん、隆一の残した“これ、本当にパステルか?”という言葉も効果的です)。

 また、ダイニリュウホウとモンパレットの仔馬の毛色に関する賭けをきっかけとして、隆一がダイニリュウホウの血統詐称に気づいたという流れも、非常に自然でよくできています。345頁の遺伝子型の表から、栗毛(ダイニリュウホウ)と青毛(モンパレット)という条件だけでは、栗毛・青毛・黒鹿毛のどれもあり得る(青毛のモンパレットが大文字の「C」を持たないので、大文字の「C」が二つ必要な鹿毛は生まれない)ことがわかるので、可能性を絞り込むためには両親の遺伝子型を特定する必要があるのです。

 一方、ダミーの真相として用意された汚職事件ですが、なかなか巧妙に考えられてはいるものの、力不足といわざるを得ないでしょう。作中で芙美子が指摘しているように、隆一が幕良へ行くきっかけとなったパステルの写真は汚職とは無関係ですし、犯人が最初に馬を撃ったことも汚職隠しにはつながりません。サスペンスを盛り上げるのに一役買ってはいますが、事件の本筋から乖離しているために、ダミーの役割を果たし切れていないのが残念なところです。

2003.07.25再読了

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