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完全殺人事件/C.ブッシュ

The Perfect Murder Case/C.Bush

1929年発表 宇野利泰訳 新潮文庫 赤136(新潮社)

 まず、犯人の使ったアリバイトリックですが、自分にそっくりな替え玉という真相には、やはり脱力を禁じ得ません。しかし、その替え玉を用意するに当たっては工夫が凝らされています。犯人であるフランクがジーン・アレンという俳優によく似ていたことから、“ジーン・アレンの代役募集”という名目で替え玉を募集するという計画は非常によくできています。双生児などのようにありきたりではなく、また偶然よく似た人物が存在したというご都合主義でもなく、あくまでも合理的に準備された替え玉には十分な説得力があります。

 しかも、その過程がぬけぬけと冒頭(第1章 C)に描かれているところは、まさに大胆不敵。替え玉となったプライスの失踪(第1章 A)、犯人とプライスのやり取り(第1章 B)などと合わせて、一見事件と関係なさそうな場面で“替え玉計画”を暗示しつつ、この第1章が手がかりであることを前書きで堂々と宣言しているのは見事です。

 ただし、フランクの容貌がジーン・アレンに似ていることを示すヒントらしきものがない点(見落としているかもしれませんが)や、冒頭にあるプライスの“謎の手紙”に隠された暗号が邦訳ではまったくわからない点(訳者の違う創元推理文庫版ではどうなっているのでしょうか)が、少々残念です。結果的に、本格ミステリとしてはややアンフェア気味になっているといわざるを得ないでしょう。

 なお、靴下の紙包みや“南アフリカの甥”など、替え玉以外の計画が巧妙に練り上げられているのも見逃せないところです。

2003.04.27読了

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