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真っ暗な夜明け/氷川 透 |
2000年発表 講談社ノベルス(講談社) |
ブロンズ像ではなく台座が凶器として使われたのはなぜか?――この魅力的な謎に対する、ブロンズ像の一時的な不在という解決は、意表を突いていて非常に面白いと思います。もちろん、凶器として使われなかったという事実以外に具体的な根拠があるわけではないのですが、これは致し方ないところでしょう(*1)。少なくとも、最も説得力のある仮説であることは間違いありません。 そして、そのブロンズ像の不在を出発点として、まずブロンズ像を持ち出すことができた人物を特定し、次にその人物の動きからブロンズ像がいつ不在だったのかを特定し、最後にその時間帯に台座を持ち出すことができた人物を犯人とするという犯人特定のロジックも、非常によくできていると思います。
ちなみに、ブロンズ像を持ち出すことができたのがバッグを所持していた人物だけだとすれば、他の人物はブロンズ像の有無にかかわらずそれを凶器として使うことができなかったのではないか、という指摘もあるようですが(例えばこちらを参照)、これには同意しかねます。 * * *
ロジックの中で気になるのはむしろ、ブロンズ像が元に戻された理由の方です。こちらでも指摘されているように、氷川は
氷川は、松原が休憩コーナーの前を通ったのは以下の三度であり(305頁)、
松原が死体を発見したのは第三の機会よりも後のことなので、事件の発生を受けてブロンズ像を元に戻したという仮説は明らかに誤っています。もっとも、休憩コーナーで“送らせてくれ”と冴子に言い出すことができなかった松原が、その時点でその日の犯行をあきらめてしまったとすれば、第二の機会にブロンズ像を元に戻すこともあり得るでしょうから、決して致命的な矛盾とはいえないと思います。 * * *
最後に氷川が言及するレシートの問題については、どうとらえたらいいのかよくわからないところもありますが、ロジックで割り切れずに“余り”が出てしまったための、照れ隠しのようなものということでしょうか。
*1: ブロンズ像の“アリバイ”の裏付けとなり得るのは、目撃情報――その不在が直接確認されるか、あるいは他の場所で所在が確認されるか――しかないと考えられます。
*2: 女子トイレは除外してもかまわないと思います。そこでブロンズ像を使う理由はありません(*3)し、そこからさらに他の場所へ運ぶとすれば同じことです。 *3: そこで誰かを殺そうとしたという可能性も考えられるかもしれませんが、誰も(標的として)女子トイレに呼び出された様子はありませんし、ブロンズ像を持ち出した人物があてもなく標的の人物を待っていたとも思えないので、やはりあり得ないでしょう。 2005.09.13読了 |
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