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トーキョー・プリズン/柳 広司

2006年発表 (角川書店)

 物語としての最大の見どころはやはり、貴島悟の人物像の二度にわたる反転でしょう。最初の反転については捕虜たちの証言を読むだけでかなり見え見えになっていますが、これはおそらく作者の仕掛けた“逆トリック”というか、最初の反転があからさまであるだけに、二度目の反転――貴島を蝕んでいった戦争の狂気と、記憶を取り戻してしまった貴島の絶望が、より大きな衝撃をもって伝わるようになっていると思います。

 そしてまた、貴島の容疑を晴らすために奔走していたはずの頭木逸男が、実はそれを阻止すべく動いていたという“もう一つの反転”も見事です。鞄が盗まれてしまったあたりでおおよその見当はつきますが、その背後に隠された恐るべき真実、そして目的を達したはずの逸男が正気を失ってしまったという結末が、これまた戦争の狂気を強く印象づけています。

 オウムを使った密室トリックについてはどうも既視感を覚えるのですが、具体的な作品が思い出せません(例によって藤原宰太郎氏の推理クイズ本か?)。しかし、密室状況が構成された理由に着目し、それを手がかりにして真相に至るという手順はよくできています。また、捕虜に恐れられる一方で鳥を偏愛するという大場の精神のアンバランスさがうかがえるのも印象的です。

 貴島の脱出(未遂)トリックは、泡坂妻夫の某作品(以下伏せ字)「病人に刃物」(『亜愛一郎の転倒』収録)(ここまで)を思い起こさせるところがありますが、その凄絶さと強靭な意志には圧倒されます。また、トイレットペーパーで作ったロープというミスディレクションが非常に効果的に機能しているところも見逃せません。

2007.01.14読了

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