君が護りたい人は/石持浅海
三原の計画第一弾は、“ニリンソウにトリカブトが混入した”というシナリオですが、奥津本人が調理しているわけではないとしても、天ぷらに混入させて奥津だけを狙うのが困難なのは確か。しかして、“肉も野菜もサンチュも”
(83頁)という何気ない一言で馬脚を現してはいるものの、天ぷらではなくサンチュに紛れ込ませるというのがなかなか巧妙です。その計画を見抜いて(*1)、さりげなく三原より先にサンチュを取り上げて犯行の機会を奪う優佳の手際も鮮やか。
続く第二弾は章題のとおり崖が“凶器”ですが、“腰が痛い”
(47頁)奥津が木にもたれることを見越して、あらかじめ木にムカデを仕掛けておくことで、“目撃者の前で奥津が勝手に転落する”という計画は、疑いを免れる上でベストといえますし、“一旦後ろに行かせる”という逆転の発想がやはり秀逸です。それに対して、他の客を連れてくることで奥津を移動させるという、優佳のシンプルな対策も巧妙です。
そして第三弾は、序盤に登場した落とし物のペグ(*2)を使った計画ですが、すぐに三原自身が拾って移動させた(43頁)ことによって、自然に指紋を残しているのが周到で、奥津とともに転倒したことを目撃者に見せておいて、“時間差殺人”で確実に仕留めることができるのがうまいところ。一方、悲鳴を上げて三原の注意を引くという優佳の対策は、やや安直な上に確実性に欠けるようにも思われますが、展開上の“お約束”というべき“因果応報”
(168頁)の決着(*3)に持っていくためには妥当なところでしょう。
決着がついた後の“感想戦”では、芳野が“見届け人”の立場を越えて三原の犯行を防ごうとしていたという優佳の指摘が、「序章」での芳野の様子(*4)からすると意外ですが、読み返してみると確かにその様子が描かれています(*5)。ということで、優佳と同じく芳野も三原の犯行を止めるためにその計画を見抜こうとしていたわけで、芳野が“見届け人”の立場を越えて“探偵”となる必然性が用意されているのが見逃せないところです(*6)。
さらに「終章」では、優佳の指摘によって、隠された芳野の本心――“わたしが奥津さんを護るんです”
(163頁)という宣言をまっとうした歩夏と対照的に、芳野が護りたいのは奥津ではないことが露わになり、それを自覚した芳野が開き直ったかのように、“あくまで思考実験”
(194頁)としながら“完璧な計画”(*7)を構想し始める結末が秀逸で、“また、みんなでキャンプに行こう”
(194頁)という最後の一言が何ともいえない後味を残します。と同時に、カバー袖にある〈著者のことば〉の“犯人以上に犯人になりきってしまうかもしれません。”
という一節が、実に意味深長に感じられます。
“ニリンソウの天ぷら”(31頁)の話が出た直後に優佳がスマートフォンをいじっていた(32頁)ことが伏線になっているのがお見事。
*2:
“あのペグが三原の準備したもの”(148頁)という芳野の推理をみると、下見の際にあらかじめペグを落としておいたということでしょうか。
*3: 身も蓋もない話ですが、三原が生き残ってしまうと、“感想戦”も含めてその後の扱いが難しい。
*4: これはあくまでも、話の裏を取る(177頁)前の心境、ということでしょう。
*5: “トリカブト”では
“芳野も身体が反応した。”(87頁)と、“崖”では
“芳野の身体が反応して、奥津の方に動きそうになった。”(120頁)と、そして“ペグ”では
“芳野は口を開いた。声を上げようとする。”(149頁)と、よく読めば三原の犯行に介入しようとする動きであることがわかります。
*6: とはいえ、芳野よりも優佳の方が先手を取っているのはさすがというべきでしょうか。
*7: 優佳の恐ろしさを身をもって知ったわけですから、優佳をキャンプに参加させないことがまず第一歩でしょう。
2021.09.28読了