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密室は眠れないパズル/氷川 透

2000年発表 (原書房)

 大橋常務殺しの現場がエレベーター――“動く密室”であるために状況がやや複雑になってはいますが、トリックの中心部分には前例(例えばC.ディクスン(以下伏せ字)『弓弦城殺人事件』(ここまで)など)がありますし、“たったいまエレヴェーターに乗りこもうとしている人影が見えたのである。そして、その人物が着ているコートには、まちがいなく見覚えがあった。”(76頁)という歯切れの悪い記述をもとにトリックを見破ることも難しくはないでしょう。そうすれば、犯人は一目瞭然です。

 もちろん、このような曖昧な描写はこのトリックに付き物(特にフェアプレイを意識すればするほど)ですし、トリックの解明が直ちに犯人につながってしまうのもこのトリックの宿命といえるでしょう。しかしながら、ロジカルなフーダニットを指向しているにもかかわらず、そのような――読者だけが認識できる叙述をもとに、早い段階で真相を見抜くことができる――トリックを使ってしまったというちぐはぐさは、やはり責められてしかるべきではないかと思います。

 またトリック以外でも、登場人物が知り得ない、作者の他の作品で“氷川透”が探偵役をつとめているという事実を知ることで、小宮山の推理が正解ではないことが予想できてしまうところも問題でしょう。

 余談ですが、氷川が示したダミーの解決は、J.D.カー(以下伏せ字)『三つの棺』(ここまで)へのオマージュでしょうか。

2005.08.29読了

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