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女王様と私/歌野晶午

2005年発表 (角川書店)

 いうまでもないことですが、それぞれの題名にもはっきりと記されているように、本書の大部分を占める「真藤数馬のめくるめく妄想」は数馬の妄想であり、「真藤数馬のうんざりするような現実」及び「真藤数馬のまぎれもない現実」が(作中の)“現実”の話です。さらにいえば、表紙及び裏表紙の見返しに綴られた電波な会話もまた、本来は“うんざりだった。”“翌日、真藤数馬は絵夢を連れて家を出た。”(いずれも5頁)の間に挿入されるべき“現実”です。

 しかしその「真藤数馬のめくるめく妄想」というパートが思いのほか妄想らしく感じられないところが、本書のポイントの一つといえるのではないかと思われます。ディテールがしっかり構築されているのはもちろんのこと、やや御都合主義的な展開も見受けられるものの決して“何でもあり”ではなく、絵夢の提案による“4枚の切り札”と最後の“強制終了”を除けば*1もう一つの“現実”といっても過言ではありません。

 だからこそ、その中で起こった連続少女殺害事件も(死んだはずの“河合来未”の“復活”も含めて)合理的に解決されるわけで、このパートはいわば、“4枚の切り札”(と“強制終了”)という特殊ルールが導入されたSFミステリ(あるいは異世界本格というべきか)の舞台に近いものと考えることができるのではないでしょうか。

 そしてこの「真藤数馬のめくるめく妄想」というパートが、特殊ルールが導入されながらもその内部で整合性が取れているという見方をするならば、説明のつけられていない三笠大雅殺しも合理的に(?)解決することが可能となります。すなわち、残っているはずの“4枚目の切り札”が機能しない(380頁〜381頁)という現象がルールに反するのですから、切り札が“もう1枚残っている”(381頁)という数馬の認識が誤りであり、したがって数馬は無意識のうちに*2切り札を使ってしまったということになるでしょう。

 それを裏付けているのが、「真藤数馬のまぎれもない現実」の中にある以下の記述です。

〈真夏の事件を掘り返している三笠大雅に死を!〉
 妄想の中のように、そうやって念じたところで追及の手はかわせない。
(391頁)

 つまり、“現実”世界で谷口真夏という幼女を殺害した数馬が、妄想の中でその真相が暴かれるのを恐れて三笠大雅を殺した、ということだと考えられます。逆にいえば、三笠大雅が説明のつかない状況で殺されたということが、谷口真夏の失踪に数馬が関わっていることを暗示する伏線ととらえることができるのかもしれません。

 もっとも、はっきり“妄想”と銘打たれている以上、読者としては最初からフェアプレイは期待できないわけで、そのあたりを検討してもあまり意味はないのかもしれませんが……。

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 「真藤数馬のまぎれもない現実」においては、もう一つの真相――数馬が妄想に耽るに至った経緯――が明らかにされています。こちらが予想していなかったところに仕掛けられたサプライズであり、また前述のように見返しに大胆に示唆されていたこともあって、“やられた”という感覚は大いにあります。

 しかし物語としての結末は、端的にいえば救いのない“夢オチ”であり、最後の数馬の選択も含めて陳腐といえば陳腐。そのあたりがやはり、最終的には微妙な読後感となってしまう所以でもあります。

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*1: 人形の絵夢がしゃべっている点は、“河合来未”が指摘したように数馬の“一人二役”(25頁)だと、“現実”的に解釈することもできます。
*2: 妄想の中で“無意識のうちに”というのもどことなく変ではありますが、少なくとも数馬自身が意識していない(忘れている)のは確かでしょう。

2007.05.13読了

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