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他言は無用/R.ハルKeep it Quiet/R.Hull |
1935年発表 越前俊弥訳 創元推理文庫125-02(東京創元社) |
事件の発端となったモリスンの死は、真相はどうあれ、心臓病として処理されてしまったことで、後から疑義を持ち出す余地はほとんどないといっていいでしょう。したがって、物語前半のミステリ的な興味は脅迫者の正体に絞られるのですが、驚くべきことにそれが中盤で明かされてしまうのが、やはり本書の最大のポイントです。つまり、物語は途中から倒叙ミステリに姿を変えるのです。 そもそも、モリスンの死の事情を知ることができた(あるいはできそうな)人物はかなり限られていますし、脅迫者に従うことをフォードに強く勧め続けるアンストラザーの態度も少々不自然ですから、(第11章に微妙な記述もあるとはいえ)脅迫者の正体を最後まで引っ張るのはかなり苦しいでしょう。したがって、真相がうっすら見えてきた頃合で倒叙ミステリに切り換えてしまうというのは、大胆にして巧妙な手法だと思います。 中盤以降、フォード、アンストラザー、カードネルという三人の、それぞれの立場からの思惑が交錯する構図が見どころですが、それが存分に描かれているのはもちろん、倒叙ミステリという形式によるものです。結局のところ本書は、途中で倒叙ミステリに変わるという手法によって、佳作に昇華し得たといえるのではないでしょうか。 2005.01.18読了 |
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