赤き死の訪れ/P.ドハティー
The House of the Red Slayer/P.Doherty
1992年発表 古賀弥生訳 創元推理文庫219-03(東京創元社)
ラルフ・ホイットン卿殺しの現場は、岡嶋二人「開けっぱなしの密室」(『開けっぱなしの密室』)を思わせる逆説的な状況で、非常に魅力的です。現代の事件であれば死亡時刻がネックとなるはずですが、酷寒のロンドンであれば体温だけなら確かにごまかすことはできそうです。ただし、暖炉も火鉢も火が消えたままだったとすれば、先に凍死してしまった可能性もあるでしょうが。
モーブレイ殺しの際の、警鐘を鳴らすトリックそのものはやや拍子抜けです。が、そこで使われたアーバレストについて、ホーンが犯人と対決しようとする場面で“小さなアーバレスト、つまりミニチュアの弩だ”
(217頁)と(読者に対して)事前に説明されているところは、よく考えられていると思います。
アセルスタンが真犯人を見抜く手がかり――ジェフリーが口にした嘘――に、英国を襲った大雪が絡んでいるのも面白いと思います。正直なところ、ジェフリー自身の話だけで“出自もちゃんとしているようです”
(260頁)と結論づけてしまうのは甘すぎると感じていたのですが、解決はやはり鮮やかです。
一方、アセルスタンを悩ませていた墓荒らしの真相もお見事。いわゆる“見えない人”トリックですが、この時代ならではの実に優れたアレンジだといえます。そして動機もまたこの時代ならではのもの。歴史ミステリのお手本のような謎といえるのではないでしょうか。
2007.09.29読了