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赤い右手/J.T.ロジャーズ

The Red Right Hand/J.T.Rogers

1945年発表 夏来健次訳 世界探偵小説全集24(国書刊行会)

 この作品については、小林晋氏の見事な解説によってほぼ語り尽くされているともいえますが、少しばかり補足しておきます。

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 記述者であるハリー・リドル医師は、冒頭(本文7〜8頁)に以下の四つの疑問を掲げています。

  1. 殺人鬼はどうやって姿を消したのか?
  2. セントエーメの右手はどこに持ち去られたのか?
  3. 殺人鬼はどうして目撃されないのか?
  4. 殺人鬼の動機は何なのか?
 しかし、少なくとも真犯人が誰なのかを見破るための突破口は、リドル医師が次に述べている疑問、すなわち“なぜ殺人鬼を乗せた車がリドル医師に目撃されなかったのか?”です。100頁の地図を見れば一目瞭然で、リドル医師の記述を全面的に信頼すれば、車はマコウメルー邸と三叉路の間で消失したことになるのですから、“マコウメルー教授”を名乗る人物が最も疑わしくなるわけです。

 ところが、そのリドル医師に全幅の信頼を置くことは非常に困難です。作者は偶然を多用してリドル医師に疑惑を向けている上に、記述自体も曖昧な部分が多いため、リドル医師自身が犯人と思い込むまでには至らないとしても、記述者としてかなり当てにならないように思えてしまうのです。この、真実を述べているにも関わらず信頼できない記述者をミスディレクションとして使う手法は、非常にユニークなものに思えます。

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 この作品の問題点としては、ウニステアが“マコウメルー教授”の死体を発見する場面も見逃してはならないでしょう。リドル医師の推理では“なにがしかそうと知れるだけの手がかりがあったのだろう。それとも、超現実主義的想像力で直感しただけなのか”(本文235頁)と簡単に片付けられていますが、ウニステアが“マコウメルー教授”として知っていたのはデクスターなのですから、このあたりにはかなり無理があると思います。

2002.10.14読了

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