〈海方惣稔シリーズ〉

泡坂妻夫




シリーズ紹介

 警視庁特殊犯罪捜査課の古参刑事・海方惣稔と、若手刑事の小湊進介のコンビが登場するシリーズで、全編にそこはかとなく漂うユーモラスな雰囲気と、泡坂妻夫らしい奇想に満ちた謎が魅力的です。

 主役の海方は、“海亀”とあだ名されるのっそりとした外見の持ち主で、ケチの上にぐうたら、そして傍若無人な人物です。そのくせ、口先で人に取り入る天才で、ちゃっかりとおいしい思いをすることもしばしばです。後輩の面倒見は決して悪いわけではありませんが、比較的常識人の進介にとっては苦労が絶えません。

 しかしその海方も、事件の謎解きには抜群の才能を発揮します。独特の勘を重視するその推理は、奇怪な事件ほど相性がいいようで、〈ヨギ ガンジー〉とはまた一味違ったトリックスター型の探偵です。




作品紹介

 現在までのところ、『死者の輪舞』・『毒薬の輪舞』の2作が刊行されています。どちらも新刊では入手困難のようですが、『死者の輪舞』の方は出版芸術社から一度復刊されているので、比較的入手しやすいかもしれません。

 なお、3作目として『紙幣の輪舞』という作品が予定されているようですが、残念ながらなかなか発表される気配がありません。


死者の輪舞  泡坂妻夫
 1985年発表 (講談社・入手困難ネタバレ感想

[紹介]
 警視庁・特殊犯罪捜査課の小湊進介は、休日に訪れた競馬場で死体に遭遇してしまった。万馬券が出た瞬間、心臓を一突きされた男が背後から倒れ込んできたのだ。同じく競馬場にいた進介の同僚・海方惣稔は、その手口を見て丁金組の幹部・筒見順の仕業だと断定する。ところが、被害者と筒見が同じ病院に入院していたというつながりが判明したのも束の間、今度は当の筒見が何者かに射殺されてしまった。そして、さらに次々と事件が……。

[感想]

 泡坂妻夫ならではの作品です。中心となるアイデア自体もさることながら、その奇妙なアイデアをこういう形で作品としてまとめてしまうところは、さすがというべきでしょう。独特のキャラクターもあいまって、まさに泡坂ワールドとしか呼ぶことのできない世界が作り上げられています。奇跡のような傑作です。

2001.06.24再読了  [泡坂妻夫]

毒薬の輪舞  泡坂妻夫
 1990年発表 (講談社・入手困難ネタバレ感想

[紹介]
 病院の精神科に入院した海方と進介。そこでは、細工をした痕跡のない飲料水の缶の中身が入れ換わり、目を光らせた幽霊が徘徊するなど、怪現象が相次いでいた。さらに、不可能としか思えない薬物混入事件が発生。いずれも奇人ばかりの入院患者の中に犯人がいるのか? それとも、決して姿を見せない202号室の患者の仕業なのか? 海方と進介が内偵を進める中、ついに毒殺事件が……。

[感想]

 こちらの作品は毒薬づくしで、章題もほとんどが薬物の名称で統一されています。本文でもそれぞれの薬物に何らかの言及がされているところは大したものです。なお、毒殺に使われた〈リザドトキシン〉(第四章の章題になっています)はベッコウトカゲという架空の蜥蜴が持つ毒という設定になっていますが、このベッコウトカゲは202号室の患者が描く幻想的な絵画のモチーフとなっていて、その妖しいイメージが効果的です(単行本カバーの山田維史によるイラストにも使われています)。

 また、病院の精神科という舞台が独特の雰囲気をかもし出していますが、夢遊病や誇大妄想症など、様々な症状を抱えた曲者ぞろいの患者たちもそれに一役買っています。

 毒殺事件そのものはやや小粒ではありますが、その周辺で次々に提示される細かい謎が興味をひきます。全編にちりばめられた伏線も非常によくできていますし、終盤の解決場面は圧巻です。

2001.07.13再読了  [泡坂妻夫]


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