ネタバレ感想 : 未読の方はお戻り下さい
黄金の羊毛亭 > シリーズ感想リスト作家別索引 > ノウンスペース > リングワールドふたたび

リングワールドふたたび/L.ニーヴン

The Ringworld Engineers/L.Niven

1980年発表 小隅 黎訳 ハヤカワ文庫SF767(早川書房)

 リングワールドの建設者の正体については、長編『プロテクター』を読んでいれば(宇宙服などの形状から)見え見えでしょうし、逆に読んでいなければ(作中で説明されているとはいえ)おそらく今ひとつピンとこないのではないかと思われます。
 しかし、建設者がパク人のプロテクターだったとすれば、リングワールドの住人たちがヒューマノイドであることも理解できますし、スクライスが放射線も遮断し得るのであればリングワールドが建設された目的も納得できます。さらに、建設者が不在となってしまった理由――ブリーダーの変異により生きる目的が失われた――にも十分な説得力が感じられます。
 もちろん、物質変換機やツィルタン・ブローンなど、ハールロプリララーの言葉が嘘だったというのには苦笑を禁じ得ませんが。

 補修センターの隠し場所は非常に秀逸だと思います。大気の薄さを再現するために高度が必要な火星の地図を選択することで、大容量の空間が確保できるというのも巧妙ですし、他の惑星の地図も配置することで本来の意図をうまく隠蔽しているところも見事です。また、裏面に凹みも放熱板もないという手がかりもよくできています。
 クジン人など連れてきてしまっては、長い年月の間にリングワールドが征服されてしまうのではないかという懸念もないではないですが、〈大海洋〉によって隔離されていることで何とかなるようにも思われます。そもそも鉱物資源がないのですから、パク人のブリーダーが住む土地まで移動できる手段を作ることも不可能でしょうし。
 なお、ルイスはダウン星の地図にグロッグがいると推測していますし、ティーラは実際にダウン星の地図でグロッグに捕らえられたと話しています(479頁)が、「恵まれざる者」『中性子星』収録)によればグロッグは紫外線に耐えられないはずです。

 ようやくたどり着いた補修センターでの、プロテクターと化したティーラ・ブラウンとの再会はあまりにも衝撃的。前作『リングワールド』では万能とも思えた“ティーラ・ブラウンの幸運”とは何だったのか、改めて考えさせられます。469頁〜470頁にかけて語られている、ティーラ自身は後代の幸運な血統の人々のための捨て石にすぎないという推測の残酷さは、何ともいえないものがあります。
 そしてまた、リングワールドを救うために1兆5000億の人々を犠牲にしなければならないという“解決策”の重さ、さらにはよりによってルイスが交流してきた人々が犠牲にならなければならないという皮肉のために、何とも過酷な決断となっているところが心に残ります。
 一方で、『プロテクター』では恐るべき超人として描かれていたプロテクターの、本能と知性の狭間に生じる限界が露呈してしまっているところも興味深く感じられます。

 それにしても、前作『リングワールド』では〈アーチ〉の根もとまで歩いていくという〈探す人{シーカー}〉の誓いに敬意を払っていた(『リングワールド』476〜477頁)はずのティーラが、あっさりと“この世界が環状だってことを教えてやった”(468頁)というのは釈然としません。

2006.08.26再読了

黄金の羊毛亭 > シリーズ感想リスト作家別索引 > ノウンスペース > リングワールドふたたび