〈ノウンスペース〉ラリイ・ニーヴン |
シリーズ紹介 |
[概要]
〈ノウンスペース・シリーズ〉はSF作家ラリイ・ニーヴンによる未来史で、長編8冊、連作集1冊、連作でない短編集2冊、及びいくつかの未訳または未収録短編から構成されています。扱われている年代は20世紀から32世紀にわたりますが、作中で言及されている出来事は紀元前15億年頃から紀元12万年頃にまで及びます。 “ノウンスペース”とは人類にとっての“既知空域”、すなわち人類が進出を果たした空域を指す言葉で、最終的には概ね地球を中心とした半径数十光年の球形の領域となっています。つまりこのシリーズは、20世紀の太陽系探査に始まり、小惑星帯への植民、恒星間探査、そして他の星系への植民という風に、“既知空域”が次第に広がっていく様子を描いたものといえるでしょう。 |
[舞台]
(作中の年代で)初期には地球を含めた太陽系内の惑星や小惑星帯などが舞台となっていますが、“ノウンスペース”の拡張に伴って物語の舞台も次第に外へ広がっていきます。ただし、それぞれ面白そうな設定がなされている割に、他の星系の植民星が舞台となっている作品はさほど多くありません。 特筆すべき舞台として、恒星の周囲に構築された巨大な環状世界〈リングワールド〉があります。 |
[種族]
シリーズには様々な生命体が登場しますが、そのうち主な種族をいくつか紹介しておきます。
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作品紹介 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
未訳・未収録の短編を除いて全11冊が邦訳されていますが、その内訳は、独立した長編3冊、連作でない短編集2冊、ギル・ハミルトンもの2冊、リングワールドもの4冊となっています。 作中の年代は、概ね以下の通り。
基本的には作中の年代順に読むことをおすすめしますが、〈リングワールド〉四部作以外は入手困難という現状では、それも難しいかもしれません。読む順番に関してとりあえず気をつけた方がいいのは、
くらいでしょうか。 |
〈長編〉 |
シリーズ内で独立した長編は、以下に紹介する3作です。
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〈短編集〉 |
連作でない短編集としては、以下の2作があります。 |
〈ギル・ハミルトン〉 |
臓器移植問題が深刻化している22世紀の地球(及び月)を舞台とし、ARM(国連警察軍または合同地方民警;Amalgamated Regional Militia)の捜査官ギル・ハミルトンを主役としたSFミステリのシリーズです。 主役のギル・ハミルトンは地球に生まれ、成人後に小惑星帯の市民権を取得して小惑星帯人{ベルター}となっています。そして、小惑星での作業中の事故で片腕を失いながらも、代わりに“想像の腕”という限定された超能力を身に着け、“腕{アーム}のギル”と呼ばれるようになります。やがてギルは地球へ戻って腕の移植手術を受け、その後ARMの捜査官となって犯罪と戦っています。 ギル・ハミルトンものは以下の2冊の他に、未訳短編「The Woman in Del Rey Crater」があります。
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〈リングワールド〉 |
恒星をリング状に取り囲む巨大な構造物〈リングワールド〉を主な舞台とし、また〈ノウンスペース・シリーズ〉の集大成として位置づけられるサブシリーズです。 舞台となるリングワールド(イメージ→「Hellcrown Ringworld Renderings」)は、ダイソン球(「ダイソン球 - Wikipedia」参照)の一部をリング状に切り取ったような構造物ですが、特筆すべきはやはりそのサイズで、半径9500万マイル(1億5200万km→地球から太陽までの距離とほぼ同じ)、床面の幅約100万マイル(160万km→地球の直径(約13000km)の120倍以上→「Ringworld Scale」を参照)、外壁の高さ1000マイル(1600km)という、途方もない巨大さを誇ります(『リングワールド』の「訳者あとがき」に記された約16億分の1の縮尺を採用すると、幅1mのリボンの幅方向両端を1mm折り返して外壁とし、直径190mの輪を作ることになりますが、この縮尺では地球の直径は約8mmで、光速は約20cm/sになります)。 その巨大なリングの内側には、地球の表面積の300万倍にも及ぶ居住可能な地表が用意されています。そしてそこには多種多様な住人たちが存在するのですが……この住人たちに関しては予備知識なしで読むことをおすすめします。 ニーヴンは当初『リングワールド』1作だけで終わらせるつもりだったようですが、読者からのツッコミを受けて続編の『リングワールドふたたび』を、さらに『リングワールドの玉座』・『リングワールドの子供たち』を発表しています。『リングワールドの子供たち』の内容からみて、これ以上の続編が書かれることはなさそうです。 |
リングワールド Ringworld ラリイ・ニーヴン | |
1970年発表 (小隅 黎訳 ハヤカワ文庫SF616) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] リングワールドの“発見”と最初の旅を描いたシリーズ第一作。当然といえば当然かもしれませんが、一行が目的地リングワールドに到着するまでにも結構な分量(文庫版で150頁以上)があります。しかし、決してその部分が退屈だということはなく、探検隊が組織されるまでのドタバタや、メンバー編成に込められたネサスの思惑、そして思いがけず明かされるパペッティア人の秘密(!)など、なかなか面白い内容になっています。
さて、リングワールドに到着した一行は、当初の予定とは違って思わぬアクシデントにより地表に降り立つことになりますが、さらにネサスが暴露した秘密(これ自体はシリーズ読者にとっては非常に興味深いものですが)がきっかけで、いきなり探検隊が分裂する羽目になってしまうところは苦笑を禁じ得ません。そのような状況のもとで、ようやく本題ともいえる冒険の旅が始まります。 ただ、予想を超えたリングワールドの住人たちとの遭遇をはじめとする冒険は、面白くはあるものの、今ひとつ物足りなく感じられるのも事実です。何せ、本書で一行が踏破するのは、リングワールドの幅方向の数分の一というごくわずかな領域にとどまっており、リングワールドの全容を解明するには遠く及びません。そして、“誰が、何のためにリングワールドを作ったのか?”という疑問に対する解答はほとんど示されることなく、物語は予想とは違った方向へシフトしていきます。もちろん、一応の決着はついているのですが、本書だけではやや消化不良気味の感が否めないところです。 とはいえ、やはりとてつもなく壮大なスケールの舞台は魅力です。その秘密の一端が明らかになる次作『リングワールドふたたび』と併せて読むことをおすすめします。 2006.08.24再読了 |
リングワールドふたたび The Ringworld Engineers ラリイ・ニーヴン | |
1980年発表 (小隅 黎訳 ハヤカワ文庫SF767) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 前作『リングワールド』で描かれた冒険から23年後、ルイスらは再びリングワールドへ向かうことになりますが、まず年月を経た登場人物たちの境遇の変化には何ともいえない感慨を抱かされます。特に、〈獣への話し手〉が前回の旅の報酬を持ち帰ったことで〈ハミイー〉(〈ハイミー〉ではないので要注意)という名を手に入れたのに対し、ルイスが電流中毒(これについては『不完全な死体』で詳しく扱われています)になり果ててしまっているのが物悲しさを感じさせます。
そのルイスとハミイーを新たな旅に連れ出すのは、パペッティア人の〈至後者〉。その目的は、リングワールドの建設者の秘密を探り出して高度なテクノロジーを手にすることであり、そのために本書ではまず、リングワールドの建設者の正体を解き明かすというミステリ的な要素が前面に打ち出されています。そしてその真相は、ミステリ的なサプライズという点ではかなり微妙なところがあるものの、よく考えられた見事なものになっていると思います。 ところで、リングワールドが軌道面内で不安定であるという読者からのツッコミを受けて本書が書かれたことは有名ですが、そのツッコミを逆手に取っていきなり深刻な危機を提示し、それに対する解決策をひねり出さなければならないというタイムリミットサスペンス的な状況を演出してしまう作者の豪腕には脱帽です。しかもそれが建設者の正体探しと密接に絡んでくるところが非常によくできています。 かくしてルイスらは、解決策を求めてリングワールド上を旅し、前作よりもさらに深く住人たちの間に入り込むことになります。リングワールドを救うという目的が目的だけに、住人たちとの間にさしたるトラブルが生じることもなく(ハミイーの悪のりにはニヤリとさせられますが)物語は進みますが、住人たちの素朴な善良さ(中にはしたたかな住人もいますが)が快く感じられます。 そして物語終盤、ようやく手がかりを手に入れたルイスら一行を待ち受けているのは、強烈な苦さを伴うサプライズ。そしてあまりにも重く、過酷な決断。決して後味がいいとはいえませんが、強く心に残る結末は秀逸で、シリーズ中随一の傑作といっていいのではないでしょうか。 2006.08.26再読了 |
リングワールドの玉座 The Ringworld Throne ラリイ・ニーヴン | |
1996年発表 (小隅 黎訳 ハヤカワ文庫SF1559) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 「訳者あとがき」にも記されているように、吸血鬼テーマの書き下ろしアンソロジー(M.H.グリーンバーグ&B.ハムリー編『死の姉妹』)に収録された「〈夜行人種〉の歌」を長編化したものです。その特殊な成立の事情のせいもあって、本来は主役であるはずのルイス・ウーの出番が前半(「第一部」)はほとんどないというイレギュラーな構成になっているのが目を引きます。
その前半は、シリーズで初めてルイスの視点を通さずにリングワールドの住人たちの生態が描かれているという点で、なかなか興味深く感じられます。住人たちには多種多様な種族が存在するわけですが、色々な意味で隔てられている各種族の間をつなぐ手段として、前作『リングワールドふたたび』でも描かれていた“リシャスラ”(異種族間の性交)が重視されているのが面白いところです。そして、本題である〈吸血鬼〉退治の顛末はなかなか読み応えがあり、特にクライマックスは迫力十分です。 ところで、この「第一部」に“ある人物”が登場していることに違和感を覚えたのですが、その秘密は「プロローグ」でもほのめかされていますし、また後になって具体的に明かされもします。しかし、個人的にはかなり安直な“解決”に思えてしまい、何とも釈然としないものが残ります。何より、(以下伏せ字)前作の結末(ここまで)が台無しになってしまっているのではないかと思えるのですが……。 さて、「第一部」に続く「第二部」では、リングワールドに(当然予想してしかるべき)新たな危機が迫っていることが示されますが、さらにその中で激化していくリングワールドの覇権争いが物語の中心となっています。本来はあまり関係のない、いわば“空中戦”に巻き込まれてしまうルイスらも災難といえば災難ですが、そもそもの危機がまったく解消していないという大問題(笑)を除けば、その結末はまずまず。特に、ある意味で「第一部」と「第二部」が対になる構成であることが、作者の手腕をうかがわせます。 ただし、他の作品の内容からみて、ニーヴンは登場人物の描き分けやスピーディに展開する場面の描写があまり得意でないと思われるにもかかわらず、本書では結果的にそのような弱点が露骨に表面化する羽目になり、かなり読みづらい箇所が散見されるのが難点です。 2006.08.27再読了 |
リングワールドの子供たち Ringworld's Children ラリイ・ニーヴン | |
2004年発表 (小隅 黎・梶元靖子訳 早川書房 海外SFノヴェルズ) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 当初からシリーズ化が予定されていたわけではないので、四作目ともなるとつじつま合わせがかなり苦しくなっているのが目につきます。例えば、
“接着剤だ”(65頁)という台詞(これは妙にツボにはまってしまったのですが)のあたりは魔法のようなテクノロジーのインフレ状態という印象を受けますし、その後には思わず目を疑ってしまうほど強引な設定変更(?)が待っています。さらに終盤にかけて、“ある人物”が大嘘つき(というほどでもないかもしれませんが)にされてしまっているのはいただけません。 また、主要登場人物の増加に伴って視点の切り替えが頻繁に行われるようになり、リーダビリティが著しく低下している上に、途中でまた“あれ”が出てきて“空中戦”になり、さすがに少々うんざりさせられます。 というわけで、正直なところ途中まではかなりダメだという印象が拭えなかったのですが、終盤にきてからの怒涛の展開は大いに見ごたえがあります。少々ご都合主義的なところも見受けられるのは確かですが、それでも立て続けに起こるあれやこれやの出来事には驚かされます。そしてそれ以上に、〈周辺戦争〉の何ともすさまじい結末が圧巻。これだけでも一読の価値はあるのではないかと思われます。 終盤で持ち直した分を考慮しても、トータルではやや微妙な出来といわざるを得ませんが、おそらくこれでシリーズも完結と思われるだけに、非常に感慨深いものがあります。シリーズのファンならばおすすめ、そうでなければ……といったところでしょうか。 2006.08.27読了 |
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