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リングワールドの玉座/L.ニーヴン

The Ringworld Throne/L.Niven

1996年発表 小隅 黎訳 ハヤカワ文庫SF1559(早川書房)

 まず、前作『リングワールドふたたび』の結末では犠牲になることが示唆されていたヴァラヴァージリンが、依然として健在であることに違和感を禁じ得なかったのですが、パペッティア人のコンピュータの高い能力という安直な解決には脱力です。
 もちろん、1兆5000億もの人々が犠牲にならなかったのは喜ばしいことではあるのですが、結果的にティーラの苦悩と死があまりにも軽い扱いになってしまっているのはいただけません。これでは、前作の重みのある結末の効果も台無しでしょう。

 さて、本書の「第一部」では大量発生した〈吸血鬼〉(前作でルイスらがやったことが原因になっているところが何ともいえませんが)に対して多種族からなる混成部隊が戦いを挑んでいますが、その中で主導権を握っているのが〈夜行人種〉であることは明らかです。さらにその後も少しずつ、〈夜行人種〉がリングワールドの中で突出した地位にあることが他の種族にも明かされていきます。
 一方「第二部」では、〈吸血鬼〉のプロテクターであるブラムが主導権を握っていますが、最終的には(ルイスの計略もあって)プロテクターと化した〈夜行人種〉の〈作曲家〉が覇権を手にしています。
 つまり、「第一部」「第二部」の展開を暗示する前奏曲のようなものであり、本書は表裏両面において〈夜行人種〉が“リングワールドの玉座”につく物語といえるのではないでしょうか。

 ところで、ブラムは〈吸血鬼〉のプロテクターの一人に“ラヴクラフト”と名付けていますが(542頁)、色々調べてみると、“アン(・ライス)”、“(ジョン・)コリアー”、“(スティーブン・)キング”らと違って吸血鬼とはあまり縁がないようなのですが……(「クトゥルフ神話ってなにさ」などを参考にさせていただきました)。これはニーヴンの勘違いでしょうか。

2006.08.27再読了

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