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嘲笑う闇夜/プロンジーニ&マルツバーグ

The Running of Beasts/B.Pronzini & B.N.Malzberg

1976年発表 内田昌之訳 文春文庫 フ21-1(文藝春秋)

 最後に明らかになる“切り裂き魔”の正体は、一応は予想の範囲内でした。エピローグでスミス警部補が気づいたのと同じところが気になったので、“切り裂き魔”はケラーではないだろうと思っていましたし(ただし、スミス警部補の病状もあってこの部分の描写にはっきりしないところがあるので、確信には至りませんでしたが)、フックにアリバイのあったフローレンス襲撃事件が狂言だったというのもいかにもな感じです。何より、犯行時の記憶がないという犯人の人物像には、序盤からその不安定さが表れているフックこそがぴったり当てはまっているのではないでしょうか。

 そのため、“切り裂き魔”の正体そのものはさほど意外なものには感じられなかったのですが、死体に残されるダイヤの形の跡について、フェラーラの仮説に反抗した女性記者の解釈(本文376頁)が正しかったというのが皮肉な印象をもたらしています。そしてまた、結末の効果的な演出(唐突に提示される新聞の見出し)が非常に鮮やかです。

 しかし、それ以上に印象に残るのは、ケラーが犯人ではないことに気づいたスミス警部補の壮絶な死に様です。最後まで自分の手で犯人を逮捕しなければならないという妄執に取り憑かれたその姿には、思わず圧倒されてしまうものがあります。

 考えてみれば、5人の視点人物のうち3人が死亡し、残り2人は狂気に囚われてしまうというのは、物語の結末としてかなりとんでもないものといえるのではないでしょうか。

2003.11.04読了

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