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塩沢地の霧/H.ウェイド

Mist on the Saltings/H.Wade

1933年発表 駒月雅子訳 世界探偵小説全集37(国書刊行会)

 小林晋氏による解説でも評されている通り、意外性に乏しいのがこの作品のミステリとしての欠点です。作者としては、ジョンが殺人計画を告白したことをミスディレクションとしたつもりなのでしょうが、その直後の、ジョンが警察官に対してついたがそれを台無しにしています。作中でヒラリーも疑問を感じているように、ファインズが酔っぱらっていなかったという嘘は、本当に潔白であれば無用とも思えるもので、これによってかえって後ろ暗いところがあるのではないかという疑惑が残ってしまっているのです。また、“ダミーの犯人”として用意されたマジェクがさほど疑わしくないところも、この状況に拍車をかけています。
 結局のところ、容疑者の立場から脱しきれていないジョンが真犯人だったという真相は、意外でも何でもないのです。

 このような状態であれば、読者に対して真相を明かす完全な倒叙形式にしてしまった方が、優れた犯罪小説となったのではないでしょうか。罪が露見してしまうことへの恐怖、ヒラリーに真相を告白できないという罪悪感、そしてマジェクが逮捕されてしまった時の良心の呵責など、ジョンの心理描写に力を注ぐことで、より味わい深い作品になったのではないかと思えてなりません。

2003.05.14読了

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