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砂楼に登りし者たち/獅子宮敏彦

2005年発表 ミステリ・フロンティア(東京創元社)
「諏訪堕天使宮」

 切り落とした首を使って生きているように見せかけるトリックにはいくつかの前例がありますが、首を見せておきながら不可思議な消失を演じた例はあまり思い浮かびません。ネックになりそうなのが使用後の首の処理ですが、この作品では戦いの最中ならではの巧妙な隠し方が目を引きます。藁の龍神という小道具もうまく使われていますし、伏犠と女蝸という伏線も面白いと思います。

「美濃蛇念堂」

 事件で最終的に誰が利を得たかを考えれば、非情な動機を含めた事件の構図は見え見えです。作中の人物に対しては事件の不可能状況そのものが真相を見えにくくしている効果があると思うのですが、不可能犯罪が最終的には解決されることを“知っている”読者には、当然ながらそれは通用しません。そして他にミスディレクションになりそうなのが、新左衛門尉の外面的な性格くらいしか見当たらないのが苦しいところです。

 足跡のない殺人のトリックは、二階堂黎人(以下伏せ字)『吸血の家』(ここまで)などの前例を組み合わせた既視感のあるもので、さほどの面白味は感じられません。むしろ、新左衛門尉の油売りのエピソードがうまく生かされた巌阿弥殺しの方が、なかなかよくできているように思われます。

「大和幻争伝」

 自らの腕を切り落とすといったあたりは常人を大きく超えるものではないといえますが、神梛の術などは明らかに超常能力の域に達しているため、結果としてアンフェアな解決を予感させてしまうところがミステリとしては大きな難点です。実際、切り落とされた“アレ”が一ヶ月ももつのかというあたりは疑問。

「織田涜神譜」

 朝絹殺しについてはトリックそのものもさることながら、魔を祓うための鳴弦というミスディレクションが非常に秀逸です。

 この作品の朝絹殺しも含めて、本書で扱われた四つの事件はいずれも複数犯によるものでしたが、それが今川氏豊と残夢の“消失”の真相を示唆する伏線となっているのがなかなか面白いところです。実のところ、いずれも複数犯ばかりで少々閉口させられた部分もあったのですが、意図的なものであればまだ納得できます。むしろ、主君の命令という強制力が通用する時代であることを利用して、多人数を関わらせて不可能状況の実現を容易にしつつ、さらにそのこと自体に伏線としての意味を持たせる巧妙な仕掛けというべきかもしれません。

2007.05.30読了