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サタンの僧院/柄刀 一

1999年発表 (原書房)

 まず、“緑の僧正”の正体がビショップ・トレディーだというのは大方の予想通りであり、またその動機も“クレメンス”に対する挑戦であることは明らかです。また、時鐘塔の村の事件の首謀者とその動機も、早い段階で示唆されています。つまり、フーダニットやホワイダニット的興味がほとんど欠けているわけで、このあたりがもったいなく感じられてなりません。

 “虚無の城”が風水に基づくものだという真相は、伝奇ものをある程度読んでいれば見当がついてしまうのではないでしょうか。ただ、その真相により“龍の左手の塔”の位置が明確になり、過去の事件の解明へとつながっていくところは見事です。

 イシュトヴァンの死に関するトリックは、泡坂妻夫の(以下伏せ字)「病人に刃物」(『亜愛一郎の転倒』収録)(ここまで)を思い起こさせますが、磁石はやりすぎでしょう(どれほど強力なものが必要なのか……)。死に瀕したイシュトヴァンの心理状況の説明はよくできています。

 終盤の“神を語る猿”の謎が秀逸です。トリックそのものは古典的だと思うのですが、その効果は非常に鮮やか。特に“神は……あなたの後ろにいる”(本文347頁)という“言葉”などは特筆ものです。

2004.07.15再読了

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