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私たちが星座を盗んだ理由/北山猛邦

2011年発表 講談社ノベルス(講談社)
「恋煩い」
 物語が終始アキの視点で進んでいくことで、“おまじない”という一面だけが強調され、“プロバビリティの犯罪”という裏面が見えにくくなっているのが巧妙で、叙述トリックにも通じるところのある鮮やかな仕掛けとなっています。“プロバビリティの犯罪”であるがゆえに、アキの身に迫る危険が顕在化しにくいということもありますが、最初の“おまじない”が“功を奏した”(ように見える)ことが、アキを(ひいては読者を)ミスリードするのに貢献しているのもうまいところです。

「妖精の学校」
 最後の一行、“20°25′30″136°04′11″”(106頁)で検索してみればおわかりかと思いますが、これは沖ノ鳥島(→Wikipedia)の座標を表しています(前半が北緯、後半が東経)。つまり『妖精の学校』は沖ノ鳥島に作られたものだということでしょう*1。そして『東の虚』と『北の虚』は、Wikipediaに“満潮時に沈まないのは東小島、北小島と呼ばれる2つの露岩で、大部分は海面下にある。”とある、東小島と北小島だと考えられます。
 “地響きのような轟音とともに、巨大な黒い『影』が、さっと図書館の前を横切りました。”(86頁)とあるのは(“一瞬周囲が暗くなるほどでした”とあることからみても)文字通りの“影”であり、その本体はおそらく飛行機(かヘリコプター?)、特に“その場所は何処にも属さない!”(71頁)と書かれた(のと同じような)大量の紙を残していったことから、他国の軍用機でしょう。そうすると、“全身が地面の白に溶け込んでいるかのようで、はっきりとは見えづらい”(79頁)という“魔法使い”は、何らかの迷彩が施された服を着た自衛隊員(?)かと思われます。
 そして、Wikipediaで紹介されている“海洋法に関する国際連合条約、第121条第3項 人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域又は大陸棚を有しない。”を踏まえれば、『妖精の学校』とは排他的経済水域の主張を確実なものとするために構築された居住地だというのが妥当なところでしょう。そう考えると、“誰かがその場所を信じ、守り続けなければならない。(中略)あなたたちは守り、守られる存在なの”(105頁)という先生の言葉は、なかなか意味深長です。
 『妖精の学校』の子供たちはどこから連れてこられたのか、そしてそこで成長した子供たちはどうなるのか、あまり考えたくないところではありますが、いずれにしても子供を盾にする行為であることは確かで、暗澹とさせられるものがあります。

「嘘つき紳士」
 キョーコとのやり取りを通じて、“俺”が(一度は)“誇りを取り戻さなければならない”(132頁)というところまでいっただけに、そのやり取り自体がキョーコにとって犯罪計画の一部にすぎなかったという真相が、何ともいえません。

「終の童話」
 “石像を元に戻す順番を繰り上げるため”というわかりやすい動機をダミーに、ジャックネッタという偽の犯人までも用意して、巧みに隠蔽された真相が秀逸。犯人(=探偵)であるワイズポーシャの自白がやや唐突に感じられるのは難ですが、“石像はそのまま人間の姿に戻ります”(175頁)という伏線を念頭に置けば十分に説得力がありますし、いわば“慈悲による犯罪”であるところが実に印象的です。
 ウィミィが困難な選択を突きつけられた結末については、野暮を承知で少し解釈してみます。
 杖と小瓶のどちらを選択すべきか、もう答えは出ていた。
 けれど行動できないまま、時間が過ぎていった。
 夜明けは近い。

 ウィミィはついに決断し、それを手に取ると、立ち上がった。

 手に持ったまま、彼女を強く抱きしめた。
「エリナ姉ちゃん」
 雪と同じ冷たさだった。
 そこには人の温もりなど、なかった。

  (201頁)
 “夜明けは近い”ところで“ウィミィはついに決断し”たことから、ウィミィが小瓶の方を選んだと考えるのが妥当かもしれませんが、小瓶を使ったとすれば(たとえすぐに絶命してしまうとしても)“雪と同じ冷たさ”“人の温もりなど、なかった”ということにはならないはず*2。しかしその一方で、ウィミィが杖で石像をばらばらに破壊したのであれば、“彼女を強く抱きしめ”ることは不可能だと思われます。
 何より、手に持ったまま、彼女を強く抱きしめた”という記述をみると、ウィミィが杖と小瓶のどちらを選んだにせよ、使い終えたら“強く抱きしめ”るのには邪魔なだけのはずの“それ”を手放していないのですから、“それ”をまだ使っていないということになるのではないでしょうか。つまり、カバー袖の“主人公たちの物語は余白に続く。”という作者の言葉そのままにウィミィの行動は“余白”に先送りされ、“第三の選択”(199頁)も含めてどのように行動したのか読者にはわからない、完全なリドルストーリーになっているのではないかと考えられます。

「私たちが星座を盗んだ理由」
 “駐車場の方を眺めた。「まだ時間がかかりそうだし」”(208頁)という伏線がかなりあからさまで、早い段階で結末が予想できてしまうのが少々もったいないところではあります。また、“いかにして星座を消したか”というハウダニットについては、(それなりに)特殊な知識を必要とするものであるため、今ひとつカタルシスに欠けるのは否めません。
 しかし、実のところこの作品の眼目は、題名にもなっている“私たちが星座を盗んだ理由”にあるといえるでしょう。“私”が星座(首飾り)を盗んだ理由にも心を動かされるものがありますが、夕兄ちゃんが星座を盗んだ理由――そこに隠されていた勘違いと、“よかったね、姫子”(226頁)という言葉を残して亡くなった姉の“私”への思い、ひいては三人の気持ちのすれ違いに胸を打たれます。と同時に、そのすれ違いがいくつかのエピソードの積み重ねによって巧みに作り上げられているところに脱帽です。

*1: ついでにいえば、“そこに羅列されていた数字は(中略)涙の形を表しているように思えてならない”(106頁)は、(もちろんヒバリ自身は知らずして)沖ノ鳥島のを暗示する伏線になっています。
*2: 熱力学的にはおかしいかもしれませんが、そこはそれ。

2011.03.17読了

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