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四隅の魔/三津田信三

2009年発表 角川ホラー文庫 み2-2(角川書店)

 死相の視え方が重要な手がかりとなっている本書ですが、なかなか容易には真相を見抜くことができないように工夫が凝らされています。事務所を訪れた入埜転子と今川姫に異なる死相が表れていたことから、二種類の死因(=殺意)が存在することがうかがえますが、寮の地下室では田土才子が命を落としただけでなく、女子社員が自殺した事件も起きているために、転子には“女子社員の恨み”が、そして姫には“女子社員の恨み+才子の恨み”が向けられているとも解釈できます。少なくとも、転子には才子及びその遺族に恨まれる所以はないため、状況が不可解になっているのが見事です。

 実のところは、“里美貴子”にしても“畑山佳人”にしても、月光荘にやってきたのは転子が〈百怪倶楽部〉に入部した後((18頁)“五月になって入寮した畑山佳人”(37頁))で、二年生である転子が一年前から〈百怪倶楽部〉の部員だったと誤解してもおかしくはないといえます。そしてその誤解が解けたことによる、転子の死相が消えたという現象とそのタイミングが、“犯人”を特定する手がかりとなっているのが秀逸です。

 ただし、転子が才子の死に関わっていなかったという話をそのタイミングで耳にしたのは“畑山佳人”だけであり、“里美貴子”の方はその時点ではまだ知らなかったと考えられるので、転子の死相が完全に消えてしまったのは、少々おかしいようにも思われるのですが……。

 冒頭で描かれている寮監の悪筆による読み間違いは、何らかの伏線であることが結構あからさまではあるかと思いますが、姫の抗議を受けて悪筆が逆方向に作用したというひねりがなかなかよくできています。

2009.03.26読了