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十二の贄/三津田信三

2015年発表 角川ホラー文庫 み2-5(KADOKAWA)

 真相が明かされてみると、十二人の相続人が全員死亡した場合の条件(107頁)によるシンプルな事件だったわけですが、事細かに設定された黄道十二宮に基づく複雑怪奇な条件が、すべてミスディレクションにすぎない*1とは考えづらい――という読者の心理を利用した仕掛けが、まずは大胆というか何というか(苦笑)

 相続人たち全員に死相が出ていた*2ことから、“皆殺し”に思い至ることも可能かもしれませんが、そこで(本書の題名にもなっている)“十二の贄”の呪術が出てくるのが巧妙で、シリーズのこれまでの作品と同じパターンかと思わせる、これまた強力なミスディレクションとなっています。

 そしてもちろん、“誘拐犯=殺人犯”と思わせることで、誘拐された悠真少年を容疑の圏外に置く仕掛けが秀逸。犯人を(最初の)被害者だと偽装する点は“バールストン先攻法”にも通じるものですが、「内と外」で誘拐された悠真の様子を描いてあるのがあざとくも巧妙なところで、殺人事件についてアリバイがあるように見せかけるだけでなく、際どい内面描写*3によってミスディレクションを補強してあるのが実に効果的です。

*1: 大面幸子による遺言状の真意が少々気になるところではありますが、まあそこはそれ。
*2: すでに誘拐されていた悠真少年が、“死視”の対象になるのを免れているのもうまいところです。
*3: 終盤の、“これが黄道十二宮による遺産相続殺人事件だった場合、三番目に殺されるのは自分だということを、悠真は理解していた。”(330頁)などは、確かに仮定の表現であるとはいえ、少々反則気味のように思われます(苦笑)。

2015.12.10読了