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絹靴下殺人事件/A.バークリー

The Silk Stocking Murders/A.Berkeley

1928年発表 富塚由美訳 晶文社ミステリ(晶文社)

 犯人は途中で見当がついた、というよりも、ひっくり返せるところが他に思いつかなかったので予想通りだったのですが、舞台のスポンサーという被害者とのつながりを目立たせることなく、舞台関係者へと疑惑を向けているのがうまいところともいえます。ただ、もう少し徹底してもよかったかとは思いますが。

 真相の解明については、メモの折り目のロジックが秀逸だと思います。シェリンガムの説明は十分に納得できるものですし、一つの手がかりからまったく正反対の解釈を導き出す手法は、(本書では目立ちませんが)多重解決を得意としたバークリーの面目躍如といえるでしょう。

 解説で指摘されている異なる動機という点には、残念ながらあまり面白味が感じられませんでした。そもそも、厳密には“異なる動機”とはいえないのではないかと思います。というのは、快楽殺人が殺人という行為そのものに関する動機であるのに対して、復讐や他人に罪を着せるというのは被害者の選択に関するものであり、両者は同時に成立し得るからです。つまり、快楽殺人という動機はすべての事件に共通して存在し、その上でレディー・アースラやドロシー・フィールダーに関しては別の動機加わったと考えるべきではないでしょうか。

 なお、モンテカルロの事件の扱いに関して解説で言及されている“ミッシングリンク・テーマのミステリ”とは、比較的マイナーなある海外作家の有名な作品((以下伏せ字)W.L.デアンドリア『ホッグ連続殺人』(ここまで))でしょうか。また、ミッシングリンク・テーマではありませんが、(以下伏せ字)模倣の繰り返し(ここまで)という意味では、京極夏彦(以下伏せ字)『魍魎の匣』(ここまで)も似ているのではないかと思います。

2004.12.08読了

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