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自殺じゃない!/C.ヘアー

Suicide Excepted/C.Hare

1939年発表 富塚由美訳 世界探偵小説全集32(国書刊行会)

 表面に見える状況は、自殺の評決を覆して殺人事件であることを立証するというものですが、真相が明らかになってみると、自殺として決着した事件を殺人犯人自らが掘り返すという、非常に皮肉な事態になっています。読者にとっては、これが一つのミスディレクションになっているともいえるでしょう。犯人のスティーヴンには“自殺じゃない!”ということが誰よりもよくわかっていたわけで、それを周囲に納得させつつ他人に罪をかぶせなければならないという苦境は、なかなか面白いと思います。

 もう一つ皮肉なのは、事件の調査を行う三人の遺族のうち、スティーヴンとマーティンの二人までが当のホテルに宿泊していたという点です。残るアンにとってはいい面の皮ですが、結局のところ、素人探偵たちは表向き事件の調査を行いながら、いかにして真相を隠すかに腐心しているわけです。この点でもやはり、一風変わったミステリといえるでしょう。

2001.06.27読了

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