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いなずま砂絵/都筑道夫

1987年発表 光文社文庫 つ4-6(光文社)

 一部の作品のみ。

「鶴かめ鶴かめ」
 お菊のちょっとした腹いせが政五郎の疑心暗鬼を呼び、思わぬところに矛先が向いて悲劇につながるというプロットが何ともいえないところで、結局は鶴と亀の裏に何も書かれていなかったというのが、謎を成立させるのはもちろんのこと、事件の悲劇性を高めている感があります。もっとも、すべては政五郎の女ぐせの悪さ(と身勝手さ)に起因するもので、後味の悪さが残ってしまうのは否めません。

「幽霊床」
 最後に明らかにされるトリックは、すぐには思い出せないものの似たような前例があったはずですが、小道具の使い方はそれなりに面白いと思います。とはいえ、前例の存在に加えて、フェアな手がかりを残しづらい*こともあって、被害者の背景を掘り下げて容疑者を絞り込むことを優先するのは理解できなくもないのですが、トリックの解明があまりにあっさりしすぎているのはいただけません。

「入道雲」
 激しい夕立という状況を利用した“早変わり”による消失トリックは、たわいもないといえばたわいもないものですが、鮮やかではあると思います。問題は、わざわざ人間消失を演出した必然性――トリックによる効果が今ひとつ見えない点で、一旦“消失”したとはいえ隣の空き家で死んでいたとあっては政太郎に疑いがかかるのは免れないはずで、逆にそれが通用するのならば政太郎が(普通に)外出している間に(仕事を休んだ)お君が首をくくったというだけで済んでしまう話だと思います(政太郎がアリバイを確保し続けていたようでもありませんし……)。

「与助とんび」
 笛泥棒から秘密の書きつけ、土蔵破りへと展開していく“表向きの解決”は面白くはあるのですが、センセーの出まかせにすぎないところが何とも。そして、銀平殺しの下手人が明らかにされないまま終わってしまうという結末には脱力。

*: 例えば、凶器の剃刀から滴った血の跡などを残すことは可能ですが、その場合には犯人の所在がすぐに明らかになってしまうという問題が生じてしまいます。とりわけ、しばしば下駄常に対して“表向きの解決”を示す必要のあるこのシリーズでは難しいところでしょう。

2009.09.01再読了

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