〈なめくじ長屋捕物さわぎ〉都筑道夫 |
『血みどろ砂絵』 『くらやみ砂絵』 『からくり砂絵』 『あやかし砂絵』 『きまぐれ砂絵』 『かげろう砂絵』 『まぼろし砂絵』 『おもしろ砂絵』 『ときめき砂絵』 『いなずま砂絵』 『さかしま砂絵』 |
シリーズ紹介 |
「おれたちは不浄役人でもなけりゃあ、まして神さま、仏さまでもねえ。政府{おかみ}を助けるためや、ひと助けのために、謎をといているのじゃあねえんだ。しくじったか、しくじらないかは、いくら儲かったかで、きまるのさ。(中略)見なよ、けっこう、ひと助けにもなっていらあな」
〈なめくじ長屋捕物さわぎ〉は都筑道夫による捕物帳の連作で、江戸は神田橋本町の貧乏長屋――通称〈なめくじ長屋〉に住むものもらいや大道芸人たちが、数々の事件を解決していきます。岡っ引や同心などではなく
もちろん作者のことですから、“単に捕物を扱ったというだけの時代劇”にとどまらず、(少なくともシリーズ中期あたりまでの)各篇ではしっかりした謎解きが展開されています。特に、 謎解き役をつとめているのは、神田筋違御門の八辻ヶ原にて様々な色に染めた砂で地面に絵を描いている砂絵師、通称センセーで、元は武士だったことが匂わされてはいるものの、過去も本名も一切不明の人物。剣の腕前も相当なものであることが随所にうかがえますが、特筆すべきはやはりその推理の才。誰もが頭を抱える奇天烈な謎を、時代にそぐわない(?)合理精神を武器に解き明かしていくスタイルは、作者の狙い通り(*3)の効果を上げており、一際印象深い探偵役となっています。 一方、センセーの指揮の下に情報収集などをこなす実働部隊としては、センセーの助手(ワトスン役)的な立場をつとめている(*4)大道曲芸師のマメゾー、全身に鍋墨を塗りたくって河童に扮するカッパ、張りぼての墓石を抱えた“大仕掛けの幽霊”ことユータ、猿田彦の面をかぶり牛頭天王の札をまくテンノー、願人坊主(→「Yahoo!辞書」を参照)のガンニン、鍋墨を塗った体で熊をまねて四つんばいで歩くアラクマ、麦わら細工のかつらに酒ごもの衣装で一人芝居を演じるオヤマなど、個性的な面々が揃っています(*5)。 もう一人、シリーズで見逃せない(準)レギュラーが、岡っ引の下駄常こと神田白壁町の常五郎(*6)で、第1作「よろいの渡し」に岡っ引・富島町の房吉の子分として登場し、その後「天狗起し」(『くらやみ砂絵』収録)以降は岡っ引としてほとんどの作品に登場しています。本人は事件解決にセンセーの知恵を安く借りているつもりでいて、その裏ではセンセーらが密かに礼金などをせしめていることがしばしばですが、いずれにしてもなめくじ長屋の面々が事件に関わるのをスムーズにする役割を果たしています。 (以下、後日追記予定)
*1: 中田雅久氏による角川文庫『血みどろ砂絵』解説より。
*2: 角川文庫『血みどろ砂絵』解説で引用されている、『推理小説の背景としての都市』より。 *3: “江戸時代ならだれでもふしぎがってくれるし、必然性もつけやすいから、そこへただひとりだけ、近代的な合理精神の持ちぬしを、放りこめばいいわけだ”(同じく『推理小説の背景としての都市』より)。 *4: ただし、登場するのはシリーズ第2作の「ろくろっ首」(『血みどろ砂絵』収録)からとなっています。 *5: 他にイブクロという芸人(?)が、「不動坊火焔」(『くらやみ砂絵』収録)以降の一部の作品に登場しています。 *6: 下駄新道に住んでいることから“下駄常”と呼ばれています。 |
作品紹介 |
短編76篇が『ちみどろ砂絵』から『さかしま砂絵』までの11冊にまとめられている――第5集の『きまぐれ砂絵』のみ6篇、他は7篇ずつを収録――ほか、『都筑道夫コレクション〈本格推理篇〉 七十五羽の烏』に「百物語」と「二百年の仇討」が収録されています。 |
血みどろ砂絵 都筑道夫 | |
1969年発表 (角川文庫 緑425-22) | ネタバレ感想 |
[紹介と感想]
*1: もっとも、このタイプの作品は他にほとんどなかったように記憶しています(本書収録の「いのしし屋敷」や、『きまぐれ砂絵』収録の「長屋の花見」などが似たような発端ですが、どちらも依頼の内容には謎はありません)。
*2: いわゆる“最後の一撃”というわけではありませんので、念のため。 *3: 痕跡を残さずに第三者が現場に侵入することが不可能な状況となっています。 2009.07.02再読了 [都筑道夫] |
くらやみ砂絵 都筑道夫 | |
1970年発表 (角川文庫 緑425-23) | ネタバレ感想 |
[紹介と感想]
*1: 例えば「やれ突けそれ突け」では、見世物で使われる特殊な形の槍などがわかりやすく図版で示されています。
*2: “「天狗起し」と「小梅富士」(注:『からくり砂絵』収録)は、推理小説マニアの従弟とのゲームから、生まれた作品である。従弟が解決のことなぞ、まったく考えずに――つまり、解決不可能なようなシテュエーションを考える。それに、私が理屈をつけて、論理でとくパズル小説に書く、というゲームで、二篇とも必然性を見いだすのに、かなり苦労したおぼえがある。”(「「なめくじ長屋捕物さわぎ」について1」(『都筑道夫コレクション〈本格推理篇〉 七十五羽の烏』収録)より)。 *3: 作中でも、 “センセーは腕を組んだ。いつぞやの『やれ突けそれ突け』事件を、思いだしたのだ。あのときとは違って、こんどの場合は(後略)”(237頁)と、少し前の事件と対比されているのが面白いところです。 2009.07.03再読了 [都筑道夫] |
からくり砂絵 都筑道夫 | |
1972年発表 (角川文庫 緑425-24) | ネタバレ感想 |
[紹介と感想]
*1: 巻末には
“「花見の仇討」は、野村胡堂氏も『銭形平次捕物控』で、材料にしておられます。”(278頁)とあり、また角川文庫版の阿部主計氏による解説でも “事件化、捕物化には持ってこいの趣向なので、度々用いられている。”(285頁)とのことで、どのように扱われているのかが気になるところですが……。 *2: 「青空文庫」の「佐々木味津三 右門捕物帖 首つり五人男」で読むことができます。 *3: 「青空文庫」の「佐々木味津三 右門捕物帖 幽霊水」で読むことができます。 *4: 「粗忽長屋 - Wikipedia」を参照。 *5: 「らくだ (落語) - Wikipedia」を参照。 2009.07.16再読了 [都筑道夫] |
あやかし砂絵 都筑道夫 | |
1976年発表 (角川文庫 緑425-25) | ネタバレ感想 |
[紹介と感想]
2009.07.18再読了 [都筑道夫] |
きまぐれ砂絵 都筑道夫 | |
1980年発表 (角川文庫 緑425-26) | ネタバレ感想 |
[紹介と感想]
*1: 「貧乏花見 - Wikipedia」を参照。
*2: 「かわらけ投げ - Wikipedia」を参照。 *3: 「船徳 - Wikipedia」を参照。 *4: 「落語の舞台を歩く」内の「第53話「高田の馬場」」を参照。 *5: 「野ざらし - Wikipedia」を参照。 *6: 角川文庫版の大野桂氏による解説で指摘されている、 “四方の山山、雪とけて(中略)風がくると、枯芦がさあっと寝て”という箇所。 *7: 「落語の舞台を歩く」内の「第146話「擬宝珠」(ぎぼし)」を参照。 *8: 「夢金 - Wikipedia」を参照。 2009.07.27再読了 [都筑道夫] |
かげろう砂絵 都筑道夫 | |
1981年発表 (角川文庫 緑425-27) | ネタバレ感想 |
[紹介と感想]
*1: 個々の作品の感想でも書いているように、他の作品との類似がかなり目につきます。
*2: 雨が続いてなめくじ長屋の面々が稼ぎに出られない、という事情によるものです。 *3: たまたま続けてアイデアを思いついたということかもしれませんが、それにしてももう少しやりようがある気が……。 2009.07.30再読了 [都筑道夫] |
まぼろし砂絵 都筑道夫 | |
1982年発表 (角川文庫 緑425-28) | ネタバレ感想 |
[紹介と感想]
2009.08.08再読了 [都筑道夫] |
おもしろ砂絵 都筑道夫 | |
1984年発表 (角川文庫 緑425-36) | ネタバレ感想 |
[紹介と感想]
*1: 例えば、「人食い屏風」(『あやかし砂絵』収録)に登場した戯作者・唐亭須磨人とセンセーとの再会など。
*2: I.アシモフ「ヒルダぬきでマーズポートに」(『アシモフのミステリ世界』収録)を思い出しました。 2009.08.14再読了 [都筑道夫] |
ときめき砂絵 都筑道夫 | |
1986年発表 (光文社文庫 つ4-5) | ネタバレ感想 |
[紹介と感想]
2009.08.25再読了 [都筑道夫] |
いなずま砂絵 都筑道夫 | |
1987年発表 (光文社文庫 つ4-6) | ネタバレ感想 |
[紹介と感想]
2009.09.01再読了 [都筑道夫] |
さかしま砂絵 都筑道夫 | |
1997年発表 (光文社文庫 つ4-27) | ネタバレ感想 |
[紹介と感想]
*: 久生十蘭〈顎十郎捕物帳〉の贋作シリーズで、単行本としては『新顎十郎捕物帳』と『新顎十郎捕物帳2』の2冊が刊行されていますが、本書の「あとがき」によれば、さらに「がらがら煎餅」と「蚊帳ひとはり」の2篇が雑誌に発表されたところでシリーズが中断されたとのことです。
2009.11.12再読了 [都筑道夫] |
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