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日曜の夜は出たくない/倉知 淳

1994年発表 創元推理文庫421-01(東京創元社)

 一部のエピソードのみ。

「空中散歩者の最期」
 猫丸先輩による解決は、物理法則を無視したものになっています。地面(水平面)に衝突する際の衝撃に関わるのは垂直方向の速度のみですから、たとえ斜めに落ちようとも落下の衝撃が大きくなることはありません。むしろ、普通に墜落するよりもロープによる摩擦の分(若干ですが)小さくなるはずです。というわけで、猫丸先輩の解決をもってしても、死体が20メートルを超える高さから落下した状態にはなり得ません。
 これは、この作品においては致命的な瑕疵ですが、本書全体でみればうまく逆手に取ることもできたのではないかと思います(後述)。

「約束」
 “おじちゃん”の見せた“魔法”が、謎を解く手がかりとなっているあたりがよくできています。

「一六三人の目撃者」
 “酒壜にいつ毒が湧いて出たのか”という糸口が、なかなか面白いと思います。

「寄生虫館の殺人」
 “ズボンをはいているのは男性”という固定観念を利用した、非常によくできたトリックです――エレベーターの“あらため”さえ十分であれば。

「誰にも解析できないであろうメッセージ」
 7篇の短編をまとめるメタレベルのエピソードで、これによって“僕”が書いた1冊の本としての体裁が強調され、次の(さらにもう一つ上位のレベルの)「蛇足――あるいは真夜中の電話」の効果が高められています。また、エピソードそのものの雰囲気の落差も鮮やかです。ただし、メッセージの仕掛け自体は細かすぎる上に明確な伏線もなく、ミステリとして面白いとはいえないでしょう。

「蛇足――あるいは真夜中の電話」
 後味のよくないエピソードですが、“現実内虚構”という趣向は面白いと思いますし、その動機もよくできています。
 余談ですが、7篇の短編中で示された“解決”がすべて“虚構”だったという結末なのですから、上で指摘した「空中散歩者の最期」の明らかな瑕疵を、猫丸先輩が真相(短編中の“解決”が“虚構”であること)を見抜くための手がかりとして使えばよかったのではないでしょうか。扱い方は違いますが、例えば島田荘司(以下伏せ字)「数字錠」(『御手洗潔の挨拶』収録)(ここまで)にみられるような、“誤った解決”に見せかけた“意図的な偽の解決”という形にできたと思うのですが……文庫化の際にでも訂正することはできなかったのでしょうか。

2005.06.13再読了

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