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白鳥の歌/E.クリスピン

Swan Song/E.Crispin

1947年発表 滝口達也訳 世界探偵小説全集29(国書刊行会)

 まずショートハウス殺害の真相ですが、非常にユニークなものです。縊死は首に巻いたロープに体重がかかって首の骨が折れるもので、重力の作用によるのですから、他の方向に引っ張ることでも当然同じ効果が得られます。そして、被害者の足首に残るロープの痕をごまかすために、手首にもロープの痕を残しておくというミスディレクションが秀逸です。

 ただ実際には、わざわざ被害者の足を引っ張らなくとも、スツールを倒しておくだけで十分なように思えます。支えがなくなった後は、重力が足を引っ張ってくれるので、間違いなくうまくいくでしょう。作者はこれだけのトリックでは物足りないと思ったのでしょうか。

 一方、ステイプルトンの死の真相については、比較的わかりやすいのではないかと思います。砒素中毒であることが明らかになった時点で、ショートハウスがアダムの化粧落としクリームに細工していた可能性に思い至るのは、さほど困難なことではないでしょう。ショートハウスはアダムに対しても危害を加える動機を持っているのですから。

 結果的に二人がお互いを殺し合ったという真相には、何やら教訓めいたものも感じられます。あるいは、オペラにも通じるある種予定調和的なもの、といった方がいいでしょうか。また、何も知らないアダムがどちらにも関わっていたというのも皮肉です。

2002.06.05読了

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