林真紅郎と五つの謎/乾 くるみ
2003年発表 カッパ・ノベルス(光文社)
- 「いちばん奥の個室」
- 特になし。
- 「ひいらぎ駅の怪事件」
- 傘に関するロジック、捨てられたビニール袋という手がかりの扱い、さらに風向きを確かめる仕草という伏線などがよくできていると思います。しかし……ゴルフはやらないのでよくわからないのですが、傘をクラブに見立ててスイングする時はやはり逆さに持つのが普通なのでしょうか?
- 「陽炎のように」
- 尚美の手に対する岸本の執着が、“手切り魔”事件につながっていくあたりはまだしも、臓器移植の思わぬ副次的な効果には驚嘆の一言です。
しかし、真紅郎がそこまで推理を押し進めざるを得なかった理由が、オカルト的な勘違いだったというのが何ともいえません。
- 「過去からきた暗号」
- 真紅郎が一行目の最後の三文字を“だった”と解釈したところからして間違っていたわけですが、やはり各行末の句点が少々アンフェアかもしれません。とはいえ、体言止めを含めると“がっか(学科)”・“ごっこ”・“じっし(実施)”・“だった(~だった)”・“じゅし(樹脂)”・“じょし(女子)”などが候補として考えられ、まったく先へ進むことができないので、話を進めるためにいきなり“だった”に決定してしまったのは致し方ないところでしょう。
真紅郎の解読が誤っていたために関係者が救われるという、何とも皮肉な結末が見事です。そして、年賀状の暗号文の正しい内容には思わず苦笑。
- 「雪とボウガンのパズル」
- 自然現象+事故という真相もなかなかのものですが、雪の降らない静岡出身だから吹きだまりに飛び込んだ、という推理が豪快です。最初にこれを持ち出されるとさすがに呆れるところですが、それまでに他の仮説が一つ一つ丁寧につぶされていることで、それなりに説得力が生じているところが巧妙です。