タイム・リープ/高畑京一郎
まず、“タイムリープ”が始まったそもそもの原因である日曜日の夜の出来事が、翔香自身による記憶の封印という形で伏せられ、(「序章」の出来事は別として)月曜日が丸一日飛ばされたことが始まりだとミスリードされてしまうのがうまいところ。しかも、中盤あたりまで“タイムリープ”という現象そのものの解明に重点が置かれている(*1)ことで、原因が完全に棚上げされているのも巧妙です。
そして、“『怖い事』があると(中略)時を先に跳んで逃げる”
(179頁)というメカニズムによって、読者を退屈させないよう頻繁な“タイムリープ”を描きつつ、その裏に翔香を狙う魔の手の存在を浮かび上がらせる(*2)という、二重の効果が達成されているところもよくできています。
翔香を狙った犯人を明らかにするとともに、それを金曜日の夜までわからないままにしておくための和彦の計画はなかなか周到ですが、そこに四通目の手紙というサプライズまで用意されているところが何ともいえません。
大量の伏線の巧みさはいうまでもありませんが、やはり冒頭の“腹が痛い”
(11頁)という和彦の言葉までが伏線となっている――と同時に、大笑いしているという状況がそれをまったく気づかせないミスディレクションとなっている――ところは圧巻です。
ところで、“『怖い事』があると(中略)時を先に跳んで逃げる”
(179頁)のはともかく、リープした先が“『安全な』時間”
(180頁)だという和彦の仮定が正しいとすると、翔香が“未来”へリープした時点でリープ先が安全であることは確定していると考えられるので、その間の“過去”は改変できない(されない)ということになるのではないでしょうか。
例えば、最初のタイムリープ――日曜日の夜(中田に襲われた時)から土曜日の夜(和彦とキスをした時)へ――の時点で、土曜日の夜に至るまでの一連の出来事は改変できなくなってしまうようにも思えるのですが……あるいは、“過去”が改変された時点で翔香が持っている“未来”の記憶も再構成されてしまう――したがって、翔香自身にも“過去”の改変が認識できない――というのが正しいのかもしれませんが……。
*2: もちろん、翔香自身の趣味(苦笑)であるたびたびの階段落ちもありますが。
2009.01.06読了