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歯と爪/B.S.バリンジャーThe Tooth and the Nail/B.S.Ballinger |
1955年発表 大久保康雄訳 創元推理文庫163-02(東京創元社) |
まず、作者の仕掛けた叙述トリック、すなわち裁判のパートの“被告人”をリュウだと誤認させるトリックが秀逸です。 プロローグ(7頁)の まず第一に彼は、ある殺人犯人に対して復讐をなしとげた。という宣言文の中の、“彼は殺人を犯した”という箇所がくせもので、(リュウの物語を読み進めていけばわかるように)復讐相手であるグリーンリーフ以外の人物にリュウが殺意を向けるとは考えにくく、 “ある殺人犯人に対して復讐をなしとげた”と重ね合わせてリュウがグリーンリーフを殺害したと考える方が、どうしても自然に感じられます。
一方、裁判は“アイシャム・レディック”なる人物の殺人事件に関するものであり、しかも被告人がかなり不利な状況です。そこから、リュウが“アイシャム・レディック”を名乗っていたグリーンリーフを殺害し(復讐をなしとげ)、その後犯行が露見して被告人となり、死刑判決を受けて これに対して意表を突いた真相はなかなかよくできているのですが、それが袋綴じよりも前の段階で明かされてしまうのはいただけません。袋綴じ(233頁以降)の直前、230頁の時点でリュウが“アイシャム・レディック”になりすましたことが示されているので、リュウの立場が裁判パートの“被告人”から“被害者”へと反転してしまいます。そうなると、残された“被告人”はグリーンリーフ以外に考えられません。さらに、“アイシャム・レディック”が復讐を仕掛ける側の人間であるならば、その死体が発見されないことにも疑念――“アイシャム・レディック”ことリュウの狂言ではないかという――が生じることになるでしょう。つまりは、真相のほとんどが見えてしまうことになるわけです。
しかしその後の袋綴じ部分では、そのリュウの企みが成功するのか否かが大いに興味を引きます。そして、ラストの * * *
作中でリュウが使った偽装殺人のトリックは、もちろん科学捜査の発達した現代では通用しないものですが、時代を考えれば問題ないどころか、細かいところまでよく考えられていると思います。特に、題名にもなっている“歯と爪”や、奇術用の骸骨“オマー”の使い方が巧妙です。
しかし偽装殺人という真相が明らかになってみると、上記の宣言文の中の
実際のところ、“アイシャム・レディック”が殺されたことは裁判を通じて公式の事実として認められたわけで、ラストの
あるいはまた、 |
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