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最上階の殺人/A.バークリー

Top Storey Murder/A.Berkeley

1931年発表 大澤 晶訳 (新樹社)

 真田啓介氏の解説(347頁)にも書かれているように、この作品における犯人の行動は比較的シンプルなものとなっています。しかし、というよりもむしろシンプルだからこそ、バークリーお得意の多重解決を仕掛ける余地があるわけです。

 そしてその内容はといえば、まず警察は終始キャンバウェル・キッド犯人説。シェリンガムの注目する問題点をことごとく無視し続けるという徹底ぶり、というよりも頑なな態度は、個人的な印象としてはかなりマイナスです。一方のシェリンガムは、まずマンション内部の住人が犯人だと考え、調査の結果エニスモア=スミス夫人に目星をつけます。このあたりの絞り込みはまったく証拠に基づくものではないのですが、容疑者たちの描写がしっかりしているために十分な説得力を持っているように感じられるところが秀逸です。

 しかし、シェリンガムのその仮説も、エニスモア=スミス夫妻が依然として金に困っていることであっさり捨てられ、シェリンガムの想像力は別の標的を求めることになります。犯人の行動を見破ったのは見事ですが、それがキャンバウェル・キッドの犯行というシンプルな結論につながらず、ステラが真犯人というドラマティックな結論へと飛びついてしまうのがシェリンガムの持ち味なのです。

2003.02.02読了

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